最新記事

エネルギー

OPEC減産にアメリカが喜ぶ理由

2016年10月11日(火)10時40分
キース・ジョンソン

 先週のOPECの決定は、実現すれば米大統領選の行方にも大きな影響を与える可能性がある。アメリカの産油地帯はテキサス州、オクラホマ州、ノースダコタ州など、伝統的に共和党が強い州に集中している。

 このため共和党の大統領候補トランプの関係者はここ数週間、OPECに大幅な減産と原油価格の引き上げを訴えてきた。OPECが減産すれば、アメリカの油田は増産に踏み切ることができ、テキサス西部やバッケン油田(ノースダコタ州)などに雇用が戻ってくる。そうすれば共和党支持層の票を固められるというわけだ。

 実際、大手シェール企業コンチネンタル・リソーシズのハロルド・ハムCEOは、トランプのエネルギー顧問として、OPECにこうした働き掛けをしてきた1人だった。

カギを握るイランの態度

 だが問題は、原油価格の上昇が米経済全体に与える影響だ。原油高は産油地域の経済にはプラスに働くかもしれないが、米経済全体にとってはエネルギー価格が安いほうがいいとボードフは指摘する。

 それに今回発表された程度の減産レベルでは、これまでの供給過剰で世界中にあふれる在庫は解消できそうにないと、マクナリーは指摘する。

【参考記事】大胆で危険なサウジの経済改革

 OPECは今回、加盟14カ国の原油生産量を8月よりも少ない日量3250万~3300万バレルに抑えることで合意した。これは世界でOPEC産原油が毎日約3250万バレル消費されるという需要見通しに基づく。これでは既に世界中のタンクやタンカーに保管されている原油在庫は減らない。在庫がだぶついていれば、早期の本格的な価格上昇は望めない。

 もっと大きな問題は、減産が本当に実現するかどうかだ。

 OPEC加盟国は11月にウィーンで開かれる総会までに、どの国がどれだけ減産するかといった詳細を決めなくてはならない。その上、OPECで最大のプレーヤーであるサウジアラビアとイランは相変わらず仲が悪く、減産に伴う「痛み分け」に合意するのは容易ではない。

 とりわけイランは、今年経済制裁から解放されたばかり。減産どころか増産と輸出拡大を急ぎたがっている。それだけにOPECのライバル諸国、とりわけサウジアラビアに配慮して、減産に同意するとは考えにくい。

 だが、こうした不透明な状況にもかかわらず、ベンチマークとなる原油価格は先週初めより上昇して、1バレル=50ドル付近で推移している。

「投資家の心理を巧みに操作したにすぎない」と、マクナリーは先週のOPECの発表を分析する。「石油の供給管理が復活したわけではない」

From Foreign Policy Magazine

[2016年10月11日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インフレ抑制法関連支出の凍結、EV支援策など対象 

ビジネス

中村審議委員、23日からの決定会合に電話会議で出席

ビジネス

SKハイニックス第4四半期営業利益、初のサムスン超

ワールド

韓国捜査当局、尹大統領を送検 内乱首謀や職権乱用で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 3
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ人の過半数はUSスチール問題を「全く知らない」
  • 4
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 5
    欧州だけでも「十分足りる」...トランプがウクライナ…
  • 6
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピ…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 10
    いま金の価格が上がり続ける不思議
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 8
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 9
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 10
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中