2000年代で最も重要なアートブックの出版社
一貫したものづくりで、シャネルの「黒」を体現。
「世界一美しい本を作る男」と呼ばれる理由がよくわかる1冊が「The Little Black Jacket」です。この本は、シャネルの伝統的なデザインとして引き継がれてきた黒いジャケットをカール・ラガーフェルドが現代的にデザインし直し、著名なファッションエディターのカリーヌ・ロワトフェルドがスタイリング、世界各国のセレブリティたちがジャケットを纏っている姿をラガーフェルド自身が撮影した写真がまとめられています。
(参考記事:Vol.02 時を経ても淘汰されることのない、革新的なデザインを収録。)
一見すると黒い直方体のようにしか見えないこの本は、中のページも黒く、黒い紙に印刷されているのかと錯覚してしまいますが、本文は白い紙に黒と2色のグレーで印刷して深みを与え、小口を黒く着色するという、優れた技術と複雑な工程を経てつくられています。コンセプトの「黒」というテーマを体現するようなブックデザインは、ゲルハルト氏の培ってきたブックメイキングに対する深い知識と洗練されたセンスによって生み出されているのでしょう。
一線を画す高品質なアートブックをつくっているSteidl社の特徴は、本づくりの方法がほかの出版社とまったく異なっている点です。通常、本をつくる際に出版社は編集と販売の役割を担うことが多く、デザインや印刷といった実際の制作は社外で行います。しかし、Steidl社は編集・デザイン・印刷・流通といった本がつくられて流通するまでのすべての機能を社内にもち、一貫したものづくりを行っています。すべてのプロジェクトはゲルハルト氏の判断によって動き、彼の決定なくしてプロジェクトは動きません。この徹底した姿勢がSteidl社のつくる本のクオリティとなり、品質とセンスを信頼するアーティストたちが増えていきました。現在は、年間に200冊以上、この先に出版が決まっているプロジェクトは700以上を抱える、世界中から脚光を浴びる出版社になりました。
(参考記事:Vol.01 これからの本の可能性を示してくれた、デザイナーのひと言。)
世界でさまざまな状況が新しいフェーズへと移行しつつある今日、アートブックの世界も変わりつつあります。そのひとつの動きとして、欧米各国でインディペンデント・パブリッシャーと呼ばれる、小規模ですが優れた本を刊行している出版社の台頭が挙げられます。現在出版に携わる若い世代は、ゲルハルト氏が数十年間にわたってつくり続けてきた優れたアートブックを目にしてきていました。これまでにゲルハルトの残してきた功績は、今日の出版界に起きている変化に大きな影響を与えているのではないでしょうか。
The Little Black Jacket / Karl Lagerfeld, Carine Roitfeld / Steidl
ザ リトル ブラック ジャケット / カール・ラガーフェルド、カリーヌ・ロワトフェルド / シュタイデル
ページ数:232ページ
装丁:ハードカバー
サイズ:29x37cm
商品コード:ISBN 978-3-86930-446-5
出版年:2012年
価格:¥17,820
写真:中島佑介