最新記事

日本社会

障害者殺傷事件、匿名性が日本に突きつけた現実

2016年9月23日(金)14時00分

9月16日、神奈川県相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件とその犠牲者の身元をめぐる沈黙は、障害者に対する姿勢について日本がどう取り組むべきかを迫っている。写真は、ロイターのインタビューに応じる尾野さん夫妻。座間市で7日撮影(2016年 ロイター/Issei Kato)

 神奈川県相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件の発生から2カ月近くが経過。東京パラリンピック開催まで4年を切るなか、同事件とその犠牲者の身元をめぐる沈黙は、障害者に対する姿勢について日本がどう取り組むべきかを迫っている。

「津久井やまゆり園」で7月、睡眠中に刃物を持つ男に襲われ、入所者の19人が死亡し、26人が負傷した。しかし、犠牲者については、性別と19─70歳の入所者だったということ以外、ほとんど何も明らかにされていない。

 こうした沈黙は、障害者がいまだ偏見と恥辱に苦しんでおり、そんな社会に変化が必要だとする議論に火を付けている。

「やはり自分の子どもがマスコミのさらし者になるというふうに考える人がいることは事実だ」と語るのは、今回の事件で複数個所刺された尾野一矢さん(43)の父、尾野剛志さん。

 尾野さんと妻のチキ子さんのように、身元を公にしている被害者の身内は数少ない。亡くなった犠牲者の家族は誰も公表していない。

「障害者が差別されるなか、家族自身がそれを囲ってしまっているという今の日本の社会がある」と、尾野さんはロイターに話した。尾野さんとチキ子さんは、息子の一矢さんのことを常に隠さずにきたという。一矢さんは自閉症と認知障害がある。

 日本の障害者に対する取り組みは前進している。日本は2014年、国連の「障害者権利条約」に批准。今年4月には「障害者差別解消法」が施行された。安倍晋三首相は、少子高齢化に対処すべく、共生社会をつくる計画のなかで、障害者について常々言及している。

 だが、障害者のなかでも特に認知機能障害のある人は、いまだに偏見に苦しむことがある。また、多くの西側先進国とは違い、家族もその恥辱を共に背負っている。

 神奈川県警は事件後、日本のメディアに発表した声明のなかで、事件のあった施設が認知障害のある人たちが入所する施設であり、家族のプライバシーを守る必要があることから、犠牲者の名前は公表しないとした。

 県警はまた、犠牲者の家族が同事件の報道について特別の配慮を求めていたことを明らかにした。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

豪中銀総裁「当面は利下げできず」 コアインフレ依然

ワールド

米中が囚人交換、相互に3人釈放 米は渡航勧告を緩和

ワールド

台湾軍が防空訓練実施、総統外遊控え 中国は立ち寄り

ワールド

イスラエル軍、レバノン南部の町を戦車で砲撃=治安筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式トレーニング「ラッキング」とは何か?
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖値改善の可能性も【最新研究】
  • 4
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウ…
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    「健康寿命」を2歳伸ばす...日本生命が7万人の全役員…
  • 7
    「健康食材」サーモンがさほど健康的ではない可能性.…
  • 8
    バルト海の海底ケーブル切断は中国船の破壊工作か
  • 9
    谷間が丸出し、下は穿かず? 母になったヘイリー・ビ…
  • 10
    未婚化・少子化の裏で進行する、「持てる者」と「持…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 7
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式ト…
  • 10
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中