ヨーロッパで政争の具にされる国民投票
とはいえ、交渉の切り札になるというだけでは今の国民投票ブームは説明がつかない。根底にはもっと大きな変化がある。ヨーロッパにおける統治の形が変わりつつあることだ。
グローバル化の時代には、国内政策であっても自国の都合だけでは決められない。EU加盟国はとりわけそうだ。環境、金融、貿易、安全保障など多くの政策が自国の首都ではなくブリュッセルで、EU官僚と各国政治家の協議を通じて策定される。
政治家は自国の議会と国民に対して責任を果たさねばならないが、EU官僚の主張に押されて、各国の要求はなかなか通らない。当然、各国の国民の不満が高まる。それを沈静化させるために政治家は国民投票の実施を約束して、民意重視の姿勢をアピールしようとする。
おまけに、イギリスの場合は誤算だったが、国民投票を実施したために足をすくわれるリスクは小さいと、政府はみている。ブレグジット以前に各国で実施されたEU関連の国民投票では、政府が推進する政策が支持される確率は73%だった。そう考えれば、国民投票は政権の正統性を主張でき、交渉で優位に立て、厄介な決定を国民に押し付けて責任を回避できる一石三鳥のツールになる。
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そのため政治家は盛んにこの手を使うわけだが、利用の意図が透けて見えるケースもある。ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は今年2月、EUの難民受け入れ枠に関する国民投票を実施すると発表した。そのときは難民の受け入れには「人々の支持」が必要だと理想主義的な演説を行い、他の国々にも実施を呼び掛けた。
それまでかたくなに妥協を拒んでいたドイツのアンゲラ・メルケル首相は、国民投票をちらつかせるハンガリーに譲歩し、難民の流入を抑制するためトルコと協定を結んだ。目的を達したと見るや、ハンガリー政府は人々の支持などどうでもいいとばかりに国民投票に言及しなくなった。しかしブレグジットを受けて、ハンガリーはEUで発言力を増すために、今秋にも国民投票を実施すると言いだした。ご都合主義もいいところだ。
有権者にも努力が必要
こうした形で直接民主主義を利用してもいいのか。国民投票の悪用は政治不信や無関心を招く恐れがありそうだ。
興味深いことに、多くの場合、世論調査では逆の結果が出ている。いい例がスコットランドの独立をめぐる住民投票だ。ある調査では、投票実施前の13年には政治に「非常に」関心がある人は32%だったが、投票実施後の14年には40%に上った。