最新記事

フード

うなぎパイの春華堂がニューヨーク進出、うなぎパイ抜きで!

2016年8月11日(木)06時17分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

ny160811-4.jpg

玉羊羹「五季」に興味津々な客たち ©Kenji Takigami

 客たちが絶賛するのも不思議ではない。近年ニューヨークの洋食レストランで出汁や味噌など日本の食材を取り入れるシェフは珍しくないが、ランバートもその1人。彼自身が日本食の大ファンで、自分の店でも日頃からシソや柚子など幅広い和食材を取り入れているという。

【参考記事】NY著名フレンチシェフが休業、日本に和食を学びに来る!

 ランバートに和食の何が魅力かと聞くと、「細部に至るまでの完璧さ」という答えが返ってきた。日本では米作りの時点から「完璧さ」が徹底されており、食材1つをとってもハイクオリティー。例えば寿司も調理以前に食材の品質が問われる和食だが、今回出されたマグロのカナッペも、せんべいである「山むすび」を見て「米と言えば寿司だ」と思いついたそうだ。こうしてライスクラッカーの上にマグロの刺身が乗った寿司風のカナッペが完成し、イベント当日はスタートから2時間で400皿すべてがなくなるほどの人気ぶりだった。

売ることが目的ではない――では何が目的か

 とはいえ、和菓子が料理の食材に化けてしまうと、春華堂の商品としてのPRにはならないのではないか。ミシュランシェフによる一皿だという認識で舌鼓を打つ客の間に「春華堂」や「五穀屋」といった名前が浸透するはずもなく、しかも春華堂はこの一大イベントに看板商品である「うなぎパイ」を持ってきてさえいない。海外に売り込みをかける作戦にしては、あまりに遠回りなのではないか。

 この疑問を春華堂の広報担当・飯島美奈にぶつけてみたところ、そもそも「売ることが目的ではない」という。海外の食通たちに食べてもらったところで、それは「直球のプロモーションにはならない」。こうしたイベントのおかげで商品が売れるようになる、というわけではないというのだ。

 ではなぜ春華堂は、世界に進出することにしたのか。目的の1つは、自社製品のブランド価値を高めることだという。世界の一流シェフの言葉には、インフルエンサーとしての力がある。しかし、「海外で評価された」ことがブランド価値を少なからず上げたとしても、それが販売促進につながるわけではない。むしろ重要なのは、海外で「和菓子が」高い評価を受けたという事実なのだと、飯島は語る。「春華堂の商品が」ではなく、「日本の和菓子が」認められることが重要なのだと。

 ニューヨークを目指したきっかけは、昨年、食をテーマに開催された「ミラノ万博」やフランスの「ダイナースクラブ レストランウィーク」に和菓子の新ブランド「五穀屋」として参加したことだった。前者は静岡県のPR枠として参加し、後者は協賛企業としての参加だったが、春華堂はそこで思わぬ手ごたえをつかむ。イタリアとフランスのトップシェフを含む食通たちが五穀屋の商品に文字通り「食いつき」、和食文化の中でもまだ世界的には市民権を得ていない「和菓子」がもつ可能性を目の当たりにしたのだ。

【参考記事】和食ブームだけじゃない、日本の料理教室がアジアで快進撃の理由

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ紛争は26年に終結、ロシア人の過半数が想

ワールド

米大使召喚は中ロの影響力拡大許す、民主議員がトラン

ワールド

ハマスが停戦違反と非難、ネタニヤフ首相 報復表明

ビジネス

ナイキ株5%高、アップルCEOが約300万ドル相当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中