最新記事

フード

うなぎパイの春華堂がニューヨーク進出、うなぎパイ抜きで!

2016年8月11日(木)06時17分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

 今、日本で流行っているのは「ニューヨーク発の〇〇」といった「黒船スイーツ」ばかりだと、飯島は言う。洋菓子職人であるパティシエを目指す若者は多いものの、和菓子職人の確保は難しい。それでも、和菓子は世界に認められてしかるべきものだし、その伝統は黙っていては廃れてしまう。

 ならば海外からお呼びがかかるのを待つのではなく、自分からアピールすればいいのではないかと春華堂は考えた。「誰かが外に出て行かないと、発信できない」

 春華堂は「うなぎパイ」が売り上げの8割を占める看板商品ながらも、もとは和菓子屋として創業した老舗の菓子屋だ。2014年には、和菓子の原点に立ち返る意味も込めて和菓子の新ブランド「五穀屋」を立ち上げた。

 これまでパイという洋菓子で利益を上げてきた春華堂は、その成功を和菓子に還元したいのだという。海外進出を通じて「日本の和菓子は世界にも通じる」という事実を、海外ではなくむしろ日本に伝えたい――これが、春華堂をニューヨークに向かわせた大きな理由だった。

創業以来の方針、「うなぎパイ」に隠された秘密

 それでも、海外にアピールしたいなら海外に出店して売ろうとするのが普通なのでは? 折しも近頃、ニューヨーカーの間では寿司ネタに限らず「ウナギ」の人気が急上昇中だ。和菓子に限らず、伝家の宝刀である「うなぎパイ」を海外で売り出すつもりはないのかと飯島に尋ねたところ、「ないです」と即答された。

 なんでも春華堂は、海外どころか浜松市外にさえ直営店を持たないそうだ。この方針は、創業者である初代社長の山崎芳蔵が掲げた「三惚れ主義(さんぼれしゅぎ)」に基づいているという。「一つ、土地に惚れること。二つ、商売に惚れること。三つ、家内に惚れること」。「浜名湖と言えばウナギ」という着想から誕生した「うなぎパイ」は、浜松の人たちが「これ、浜松のお土産です」と言って全国に広めてくれたことで成功できた「浜松でしか買えないお土産」なのだそうだ。

 ちなみに、三惚れ主義の「家内」は従業員のこと。「うなぎパイ」は今でもすべて、55人の職人たちが毎日20万本、すべて手作りで製造している。職人を大切にする春華堂にとって、海外でのイベントを通じて世界の一流シェフたちにその職人技を評価してもらうことは、社内への還元でもあるのだろう。

「うなぎパイ」の会社がニューヨークのプレミアイベントに出るというので駆けつけたところ、彼らが浜松から見据えていたのは海外ではなく国内だった――。春華堂の海外進出は、「うなぎパイ」をもって全国で愛されてきたファミリー企業による、日本と和菓子への恩返しなのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中