最新記事

尖閣諸島

中国漁船300隻が尖閣来襲、「異例」の事態の「意外」な背景

2016年8月12日(金)15時46分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

 9日にはついに岸田文雄外相自らが程永華・駐日本中国大使に抗議する事態にいたった。早くもレベルはマックスに到達してしまったわけだ。

尖閣だけではなかった"異例"尽くしの中国外交

 尖閣諸島における中国の異常な動きはいったい何を意味しているのだろうか? ついに中国が尖閣諸島の実効支配を奪おうと実力行使に出てきたのか。フィリピンが提訴した国際仲裁裁判所での敗訴を受け、黒幕である日本に報復しているのではないか。はたまた、タカ派として知られる稲田朋美議員の防衛相就任に対する嫌がらせではないか――などなど専門家の間でもさまざまな意見が飛び交っている。

【参考記事】中国はなぜ尖閣で不可解な挑発行動をエスカレートさせるのか
【参考記事】中国がいま尖閣を狙う、もう一つの理由

 尖閣諸島だけを見ていては理解できないというのが私の立場だ。中国を取り巻く環境を見ていると、対日外交以外にも異例の行動を次々と繰り出している。

 まずは韓国に対する「韓流禁止令」だ。7月13日、韓国政府は在韓米軍のTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備を認める方針を公表した。THAADに付随する高性能レーダーが人民解放軍を丸裸にしかねないと中国は撤回を求めてきたが、8月に入って韓流スターのイベント中止といった具体策的な報復策に出ている。韓国に行く中国旅行ツアーの中止が始まったとの情報もある。こうした報復そのものは中国ではよくあることだが、配備発表から半月以上が過ぎてから行動開始は不可解きわまりない。

 そして南シナ海。8月6日、中国人民解放軍空軍広報官は南シナ海での「戦闘巡行」が始まったことを宣言した。今後は戦闘機や爆撃機、偵察機、空中給油機からなる編隊が定期的に南シナ海をパトロールするという。尖閣諸島近海でも船舶と航空機による定期的な巡行(パトロール)を実施している中国だが、わざわざ「戦闘」という挑発的な言葉をつけ、爆撃機まで飛ばすというのは"異例"としか言いようがない。

 そう、8月に入って尖閣諸島、韓国、南シナ海という3つのスポットにおいて、中国は"異例"の強硬姿勢を見せているのだ。

原因は政治の季節、大国になりきれない中国

 中国外交は本来、きわめて柔軟だ。7月24日から26日にかけて開催されたASEAN関連外相会議ではその真価を発揮し、経済援助をちらつかせたかと思えば、一方的な行動を取り締まる南シナ海行動準規範の早期制定に言及するなど精力的な外交を展開。ASEAN外相会議の共同声明から中国批判の文言を削除するという成果を手に入れている。

 うまく批判を回避したというのに、そこで「戦闘巡行」などと言い始めれば、せっかくの成果はおじゃん。国際社会の批判は必然だ。これまでの外交努力を無駄にするような強硬姿勢は、外交よりも優先される論理があることを意味している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ビットコインが10万ドルに迫る、トランプ次期米政権

ビジネス

シタデル創業者グリフィン氏、少数株売却に前向き I

ワールド

米SEC委員長が来年1月に退任へ 功績評価の一方で

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦争を警告 米が緊張激化と非難
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中