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エリートは無知な大衆に立ち向かえ

2016年7月8日(金)20時40分
ジェームズ・トラウブ(ジャーナリスト)

 そうした非公式の連立が成り立つのは、事態が収束するまでのことだろう。だが異なる政党が共生を強いられた結果、党派を超えた再編につながることもあり得る。つまり中道左派や中道右派を掲げる複数の党が分離して、新しいタイプの中道派を形成する可能性があるということだ。現実主義やメリオリズム(世界は人間が努力すればより良いものに出来るという考え方)、専門知識、効果的な統治の正当性を主張することで、左派と右派の両極に集まるイデオロギー色の強い勢力に対抗する。アメリカの共和党はいずれ、トランプの呼びかけに集まった愛国主義者の怒りを制御できなくなる日がくるかもしれない。その場合、一世代前のビジネス寄りの政党に自らを再編し直すのが唯一、消滅を免れる道だろう。

危機より我慢できない長期停滞

 問題の根底にあるのはグローバル化だ。英EU離脱、トランプ人気、国民戦線躍進といった現象が明らかにしたのは、政治エリートたちが、世界的に広がる人々の怒り、せめて昔のレベルまで回復させてほしいという要求を見過ごしていた事実だ。その反動がなぜ今ごろになって表れたのか。なぜ2008年の世界経済危機の直後に表れなかったのか。問題は、危機そのものより危機収束後の新たな停滞だった。ヨーロッパの経済成長やアメリカの最低所得の伸び率が横ばいという状況と、長期的な見通しの暗さに対して有権者は反乱を起こした。また多くの高齢者は、自分たちが生まれ育った身近な世界が失われつつあるのは外国語や異文化が外から押し寄せてきたからだと感じており、国際派のエリートたちに反感を抱いている。最近訪れたポーランドでは、極右政党が愛国主義を扇動し、伝統を重んじる風潮が強まっていた。ポーランド経済は、数年にわたる中道政権の下で大いに繁栄したというのに。極右政党の支持者たちは「価値と伝統」という言葉を繰り返す。彼らは「ポーランド人であること」に票を投じ、西ヨーロッパの現代性に背を向けた。

【参考記事】ポーランドの「プーチン化」に怯えるEU

 おそらくこれからの政治は、グローバル化の枢軸を取り囲むように再編が進み、怒れる人と現実主義者という両側に分かれる。愛国主義を掲げる政党を支持するのは、自分たちを主権の擁護者と考える労働者や中流層の白人だろう。一方、中道派が支持を得られるのは、グローバル化の恩恵を受ける人々。そして非白人の貧困層や限界的な市民たち。愛国主義に重きを置く政治が力をもてば、自分たちが社会から排除されると自覚している人々だ。

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