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イギリスがEU国民投票で離脱を決断へ──疑問点をまとめてみた

2016年6月24日(金)16時35分
小林恭子(在英ジャーナリスト)

──潮目が変わった

 しかし、2014年、潮目が変わった。

 この年の欧州議会選挙で、イギリスに割り当てられた73の議席の中で、UKIPが21議席を取って第1党に躍り出たのである。市民の声が政治を動かした。

 どんなに恰好の悪い本音でも、本音は本音である。

 UKIPは与党・保守党を大きく揺り動かす。もともと、EU懐疑派が多い保守党。この懐疑派が40代半ばにして党首となったキャメロンの足を引っ張る。保守党議員がUKIPに移動する事態が発生し、キャメロンは懐疑派=超右派を黙らせるため、また党の存続のため、EUについて何かをしなければならなくなった。

「制限がないEUからの移民流入が不都合をきたしている」──そんな思いをくみ取れなかったのは最大野党の労働党も同じ。

「EUは大切だ」という姿勢を崩さなかった労働党に加え、2015年4月まで連立政権の一部だった自民党も大のEU推進派だ。

「今度こそ、単一政権を実現させたい」──2015年5月の総選挙で、そう思ったキャメロン首相は「保守党が単一政権になったら、EUの離脱・残留について国民投票を2017年までに行う」と約束して、選挙戦に臨んだ。

 ふたを開けてみると、労働党惨敗で、保守党は単一政権を打ち立てることができた。

 その後、UKIPを中心として国民投票実現へのプレッシャーが高まる。

 キャメロン首相はとうとう、今年6月23日の実施を宣言せざるを得なくなった。

──誰が残留をあるいは離脱を支持したか

 残留はキャメロン首相、大部分の内閣、下院議員、労働党、自民党。エコノミストたち。OECD、IMF、イングランド中央銀行。カーン現ロンドン市長、オバマ米大統領、ベッカム選手、ハリー・ポッターシリーズのJKローリングや俳優のベネディクト・カンバーバッチ、キーラ・ナイトレーなど。中・上流階級(日本の中流よりは少し上の知識層)、国際的ビジネスに従事する人、若者層。

 離脱はジョンソン元ロンドン市長、ゴーブ司法大臣、ダンカンスミス元年金・福祉大臣、ダイソン社社長、労働者・中低所得者の一部、英連邦出身者の一部、中・上流階級の一部・保守右派で「大英帝国」信奉者、高齢者の一部。

──2つに割れた、イギリス国民。また仲良くやっていける?

 しばらくは溝を埋める時間が必要と言う見方があるが、イギリスはもともと、階級制の名残がある国だから、「自分は人と違う」ことを当たり前としてきた。したがって、このまま、溝は溝のまま、続いていくのではないかと筆者はみる。

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