北朝鮮の「同性愛」事情、その知られざる実態を体験者が告白
そんな息苦しい社会から、チャンさんが逃げ出したのは必然に思える。しかし残念なのは、韓国に行ってからも自由を謳歌できていないことだ。脱北者であり性的少数者である彼は「ダブルマイノリティ」として、二重の差別を受けてきたのである。
韓国では、キリスト教保守プロテスタントを中心にした勢力がホモフォビア(性的少数者差別)を煽り、性的少数者のパレードに対して激しい妨害を行うばかりか、「性的指向に基づく差別を禁止する」という条項が含まれているとして、差別禁止法の制定にも激しく反対している。
性的少数者の尊厳を平気で踏みにじる行動や言動を続けている彼らだが、一方で北朝鮮に対して人権問題の解決を要求し、韓国に暮らす脱北者の生活支援を行っている。実に皮肉な現状ではある。
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ――中朝国境滞在記』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)がある。