崩れゆくベネズエラ ── 不穏な政治状況、物不足と連日の襲撃事件
危うい非常事態宣言
5月13日の非常事態宣言以降、ベネズエラ全体の緊張は一気に高まりました。ここで一斉摘発というのは、つまりは言うことを聞かない会社に「接収するぞ」と脅しをかけることを合法化する、という危険なものです。
このような事態に対してアメリカも懸念を示しています。
懸念されるクーデターですが、具体的な陰謀の証拠はまだ出ていないとはいえ、政府が一つまた一つとおかしな動きをするごとに、国民の間では絶望のあまりクーデターに対する期待の高まりもみられます。
ただし、クーデターが実際に起きたところで治安回復や政権交代などがうまくいく保証はありません。チャベスは2002年のクーデター未遂で一時的に軍に監禁されるという苦い経験をしたため、その後念入りに軍の人事などの調整を行い、クーデターによって政権が転覆されることが二度とないよう準備を整えています。コレクティボスと呼ばれる武装した過激チャベス支持者による民兵組織がその例です。また、軍内部の麻薬絡みの対立の噂もあります。軍内部の実態が見えず、コレクティボスらがいる限り、軍が武力で事態を収拾できるという保証はなく、むしろ内戦の恐れすらあります。安易にクーデターが起きれば...と言えない理由がここにあります。
とはいえ、どのようにしてベネズエラはこのような事態に陥ったのでしょうか? これをうまくまとめたのが、アトランティックのこの記事です。
崩れゆくベネズエラ
工場経営者が労働者のためにトイレットペーパーを大量に買ったら、アメリカに支援された経済戦争の片棒を担いでいるとして逮捕される。これが今のベネズエラです。
書いたのは『権力の終焉』の著者モイセス・ナイームとCaracas Chroniclesの創設者フランシスコ・トーロです。(スペイン語版が読みたい人はスペインの新聞エルパイスでどうぞ。)
記事によると、ベネズエラでの死亡率はここ2年で跳ね上がっている。干ばつで水もないし、電気もない。長年、投資やメンテを怠ってきたインフラはボロボロ。
それくらいベネズエラは貧しい国なのでしょうか? 石油価格下落の影響はそれほど甚大だったのでしょうか?
ナイームとトーロは否と言います。もちろん石油の影響はあるけれど、現在の危機的状況、物不足や治安の悪化などが急激に悪化し始めたのは2014年、石油がまだ1バレル100ドルで取引されてた頃だからです。
てんかんの薬さえ飲めば問題なく元気に暮らしてた14歳が、薬不足で数日間薬が飲めなくて亡くなる。こういうケースが毎日続々と起きてるときに、政府は薬の確保ではなく、F1レーサーのマルドナードに年間4500万ドル出し続けていた。
でもかつてはあんなに豊富にあった石油マネーはどうなったのでしょうか? 汚職、汚職、汚職、汚職、汚職...で、もうありません。
貧困対策? チャベス派は長年、貧困層への教育をプロパガンダの中心にしていたけれど、これも現在では虚しいお粗末な状況です。学校給食プログラムは機能してないし、貧しい子どもは飢えまっしぐら。一方で2003年以降、政府関係者は食料輸入関連の汚職だけで2000億ドルは盗んでいた。
2000億ドルって、日本円で17兆円弱ですよ。しかも食料輸入関連だけでこの額です。
(この記事については、国連の外交問題のポッドキャストGlobal Dispatchesでもトーロが話してるので良かったら聴いてみてください。)
チャベス派の中からも起こる抗議
ちなみに、貧困対策でも特に有名なミシオン・ビビエンダですが、かつてはチャベス派の票は堅いと言われていたこのような場所でも抗議運動が起きていることを英紙ガーディアンが伝えています。当然だと思います。ミシオンのお世話になるような貧しい人から飢えていくからです
このような状況なので当然、野党の反発は大きく、さらにその反発を、政府は法的権力をもって(最高裁による野党が多数派を占める国会の無効化などによって)抑えつけようとしています。出口は見えないまま緊張ばかりが高まり、政治状況も芳しくありません。