最新記事

新興国

米利上げ時の「新興国リスク」に市場は懐疑的、大量資金流出を克服

2016年6月5日(日)21時20分

 今春には、マネーの流れも回復。国際金融協会(IIF)の調査では、新興国向け株式・債券の投資資金は、3月に流入超に転じた。「米利上げペースが鈍化するとの見方が広がり、資金流出が和らいだ」と、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査部主席研究員、廉了氏は指摘する。

 同時期には日欧の中銀が金融緩和を進めており、緩和マネーが債券を中心に新興国に流入した面もあるという。先進国が軒並み超低金利からマイナス金利に落ち込む中、新興国の高金利は一段と魅力を増していることも、新興国へのマネー回復の背景だ。

米利上げは緩やかとの見方

 早期の米利上げが視野に入ることで、あらためて新興国からの資金流出、経済の落ち込みが警戒される可能性があるが、ニッセイ基礎研究所・シニアエコノミスト、上野剛志氏は「年初ほどには下振れリスクは強まらない」とみる。

 資源国経済に影響する原油は、米国などでの生産調整が進んだ一方、中国やインドなどで需要が拡大基調にあるとの国際エネルギー機関(IEA)の分析もある。中国経済は、インフラ投資の活発化や財政支出前倒しで、景気の下振れ懸念に和らぎもみられる。

 新興国の経済ファンダメンタルズは国ごとのばらつきはあるものの、総じて改善方向にあるとして、SMBC日興証券・新興国担当シニアエコノミスト、平山広太氏は「景気復調を先取りしながら、株式市場は底堅さを増していくのではないか」と見ている。

 ブラウン・ブラザーズ・ハリマン・通貨ストラテジスト、村田雅志氏は、米国が利上げに動いたとしても、1回あたり25ベーシスポイントにとどまるとして「新興国の金利が相対的に高い状態が続く限り、過度にパニック的な新興国通貨売りは起きない」と指摘している。

 JPモルガン・チェース銀行・為替調査部長、棚瀬順哉氏も、資金流出の動きは限定的とみる。3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で対外要因への配慮が示されたことで「新興国での大規模な資本流出や経済混乱が生じかねない状況下では、米国は利上げをしないということだ」という。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中