最新記事

経済

EU離脱ならイギリスも世界経済も一大事

2016年6月20日(月)17時19分
デズモンド・ラックマン

Toby Melville-REUTERS

<EUを離脱すれば、イギリスにはイバラの道が待っている。国民投票後の離脱交渉では、EUは離脱願望が他の加盟国にも波及するのを防ぐためイギリスに厳しく対処しなければならない。そうした交渉の間の不確実性だけでも、投資家にポンドを売らせる材料としては十分だろう>

 6月23日に迫ったイギリスの国民投票では、有権者が良識を示し、EU(欧州連合)残留に票を投じることを祈ろう。EU離脱が決まれば、イギリスを始め欧州や世界経済全体に深刻な打撃を与えるだけでなく、イギリスとEU双方の体制の存続にも大きな影を落とすことになるだろう。

【参考記事】弱者のために生き、憎悪に殺されたジョー・コックス

 イギリスのEU離脱の是非を問う国民投票に対する市場の懸念がこれほどまでに高まっている理由の一つは、タイミングの悪さだ。今は、イギリスと欧州が共に景気後退局面を迎えている。英イングランド銀行(英中央銀行)のマーク・カーニー総裁が最近指摘したように、イギリスでは経常赤字のGDPに対する比率が7%に達する勢いで、戦後最悪を更新中だ。この対外債務を穴埋めするため、イギリスは不本意にも海外の投資家に依存している。

 イギリスでは現在、社会のあちこちに亀裂が生じている。例えば、EU残留を望む住民の割合が圧倒的に高い北部スコットランドでも、分離独立主義が高まっている。与党・保守党内でさえ、EU離脱の是非をめぐる対立が深刻化したことで、政治の不安定化という新たな懸念材料が生まれている。

【参考記事】英国EU離脱投票、実は世代の「上vs下」が鍵を握る?
【参考記事】イギリスの漁師は90%がEU離脱支持──農家は半々

 欧州全体を見ても、イギリスのEU離脱の影響に耐えられるような経済状態にはない。超低金利やユーロ安、原油安などが追い風となって恩恵を受けてきたはずなのに、欧州経済の足元はすでにふらついている。事実欧州経済は、2008年の世界金融危機以前のピークのGDPをようやく回復したところで、これまでも力強く回復してきたとはとても言えない。

離脱なら資金が流出?

 さらに欧州は今、移民危機に手も足も出ない状態にある。その結果としてドイツやフランス、オーストリアなどではポピュリズムや排外主義が台頭している。そうした傾向を反映してか、米シンクタンク、ピュー・リサーチセンターの最近の調査によると、EU加盟国の有権者のうちEUを肯定的に捉えているのはたった半数に過ぎなかった。

 2013年に思い切りよく国民投票の実施を約束したデービッド・キャメロン英首相は今、EUから離脱すれば、イギリスは多大なリスクを被ることになると警告し、EU残留を主張している。

【参考記事】英キャメロン首相「EU離脱派6つのウソ」

 仮にEU離脱が決まれば最大2年間かけてイギリスとEUは今後の関係に関する交渉を行うことになるが、その間、投資家にとっては先行き不透明感が強まって、イギリスの膨張する経常赤字をファイナンスし続けるのも躊躇するようになり、海外の資金がイギリスを引き揚げる可能性もある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 10
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中