最新記事

国民投票

イギリスの漁師は90%がEU離脱支持──農家は半々

2016年6月14日(火)16時00分
クレイグ・マクアンガス(アバディーン大学講師)、サイモン・アシャーウッド(サリー大学上級講師)

Dylan Martinez-REUTERS

<EU離脱に関してイギリスの世論一般は賛成と反対が拮抗しているが、漁業者は例外的。圧倒的に離脱支持が多い。EUの「共通漁業政策」にはこりごりと言うその実態は>写真はイングランド北部沖の漁船

 イギリスがEUを離脱するか否かで影響を受ける産業のなかでも、漁業は重要な産業の1つだ。EU諸国の海のどこで誰が漁をしていいかを決め、資源保護の観点から国ごとに漁獲量を割り当てる「共通漁業政策(CFP)」は、信じられないほど評判が悪いことで有名だ。その結果、我々が行った調査でも、イギリスの漁業者はほぼ全員一致でEUを離脱したがっている。

【参考記事】得か? 損か?日本を惑わすTPP恐怖症

 漁業者はCFPに対して極めて批判的だ。2016年5月には、EUを脱退してイギリス領海の漁業に関する支配を取り戻すための団体「離脱する漁業」を創設した。

 我々が5月と6月、イギリス中の漁業組合の組合員に対して行った調査によると、イギリスの有権者全体では離脱派と残留派がほぼ半分に分かれるのに対し、漁業者の場合は92%がEU離脱に投票すると回答した。これほど一方的な結果は、イギリスの他の経済・社会団体には見られない。

 この傾向はEU全体についての意見にも見られる。イギリス全体ではEUに対して「ネガティブ」という回答が約30%だが、漁業者では90%を超えている。

 我々が話をした漁業者の圧倒的多数は、EUを離脱したほうがイギリスの漁業は活気づき、漁獲量も増えると75%以上の漁師が考えている。

何が起こるかわからない

 もっとも、EUを離脱してCFPの対象外になったからといってイギリスの漁業にすぐメリットがあるかどうかはわからない。EUから抜ければ、今まで通り欧州統一市場にアクセスが許されるかどうかわからないからだ。

 EU諸国への魚の輸出には大きな影響が出るだろう。フランス、スペイン、アイルランドは2014~15年にイギリスの魚を14万トン買っており、イギリスの魚の輸出先トップ20カ国の36%を占めている。

 だが、我々の調査によると、漁業者はEU離脱が魚の輸出に与える影響を深刻に考えていない。漁業者の4分の3は貿易に影響はないと考えている。むしろ良い影響があると考えているのだ。

 この調査からは漁業者の自信の根拠はわからないが、漁業者との会話でよく聞いたのは、魚介類はイギリスよりEU、とくにフランスとスペインで人気が高いため、EUの漁業者だけでは需要を満たせない。従ってイギリスから買い続けるしかない、というのだ。

 とにかく漁業者のEUに対する反感は強い。漁業と同様、共同農業政策の枠をはめられながらも、EUに対する賛否が分かれる農業者とは対照的だ。農業者の場合、市場統合による損失はEUが補助金で補償してくれたのに対し、漁業者は何もメリットを得ていないせいもあるだろう。

 欧州統合の恩恵は広く薄い半面、コストは一点に集中しがちだ。漁業者がそのしわ寄せを一身に受けてきたと思えば、こうした反応も驚くにはあたらない。

The Conversation

Craig McAngus, Lecturer in Politics, University of Aberdeen and Simon Usherwood, Senior Lecturer in Politics, University of Surrey

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

OECD、世界経済見通し引き上げ 日本は今年0.5

ワールド

ロシア製造業PMI、4月は54.3 3カ月ぶり低水

ビジネス

午後3時のドルは155円半ば、早朝急落後も介入警戒

ビジネス

日経平均は小幅続落、連休前でポジション調整 底堅さ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中