警官が「報復」と「餓死」におびえる社会
仮に、一定のワイロが得られたとしても、保安員の地位は安泰ではない。住民とうまく「持ちつ持たれつ」の関係を築くことができればいいが、下手なことをして恨みを買うと、先述のように夜道に襲われかねない。夜に保安員が襲撃される事件が多発したことから、「夜道のパトロールは怖い」と嫌がる保安員が続出するなど、本末転倒の状況となっている。
こうした状況を生み出したのが、北朝鮮の悪しき官僚主義にあるのは言うまでもない。同時に、急速に市場経済が拡大する北朝鮮「草の根資本主義」を支える女性たちは、経済面だけでなく、治安体制にも影響力を及ぼしつつあるようだ。
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ――中朝国境滞在記』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)がある。