あのトランプとクリントンも一致、米国でインフラ投資に追い風
民主党の候補指名獲得が濃厚なクリントンも、インフラ投資の促進を主張する。クリントンは、高速道路、水道、公共交通機関など、さまざまな分野に3,000億ドル近い投資を行うと公約している。
財政赤字の拡大が容認される可能性も
注目されるのは、財政赤字の拡大を容認するかどうかだ。財政赤字を拡大させずにインフラ投資を進めるのであれば、投資拡大に見合った財源が必要になる。法人税やガソリン税の増税が有力候補だが、財源確保に難航するようだと、実現できるインフラ投資の規模は小さくなる。
財政赤字の拡大を容認する機運はある。オバマ政権で経済担当大統領補佐官を務めていたハーバード大学のサマーズ教授は、世界的な需要不足により、長期的に成長率が低迷する可能性を指摘する。その有力な打開策は財政赤字を増やして需要を創出することであり、なかでもインフラ投資は有効な手法だとみなされている。
財政政策の活用は、米国経済にとどまらず、世界経済の成長を後押しする手段としても注目されている。5月26日から開催される伊勢志摩サミットでは、財政出動による内需の拡大が、重要な論点のひとつとなっている。
財政再建の切迫感が薄れていることも無視できない。米国の財政赤字は、すでに歴史的な平均を下回る水準にまで縮小している(図2)。オバマ政権下では金融危機への対応で膨らんだ財政赤字の縮小が大きな課題だったが、選挙後の新政権では財政赤字の緩やかな拡大を容認される可能性がある。
国政、財政の追い風だけで、インフラの再建が可能になるわけではない。例えば資金面では、いくら連邦政府が財政赤字の拡大を容認するといっても、それだけでは不十分だろう。クリントンはインフラ投資に3000億ドルを用意するというが、安全な飲料水を確保するための投資だけで、4000億ドル近くが必要になるとの試算もある。実際の投資プロジェクトを運営する州・地方政府と協力し、民間の資金を呼び込むような取り組みが必要となる。
とはいえ、連邦政府が積極姿勢に転じることは、インフラ再建の最初の一歩になる。トランプ旋風による混乱ばかりが心配される米国の今後だが、少なくともインフラ投資に関しては、悪いニュースばかりではなさそうだ。
安井明彦
1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、2014年より現職。政策・政治を中心に、一貫して米国を担当。著書に『アメリカ選択肢なき選択』などがある。