最新記事

貿易

メイドインジャパン潜水艦「ごうりゅう」幻に、仏勝利の舞台裏

首脳同士の絆を信じ潮目の変化を読めなかった日本と劣勢から地道に弱点を克服したフランス

2016年4月29日(金)13時33分

4月28日、初の大型武器輸出として日本が目指したオーストラリア向け潜水艦「ごうりゅう」の受注は、幻に終わった。首脳同士の絆のもとで日本は勝利を疑わず、途中で変わったゲームの流れについていけなかった。写真は豪潜水艦、パース近郊で2004年10月撮影(2016年 ロイター/Australian Defence Force)

 初の大型武器輸出として日本が目指したオーストラリア向け潜水艦「ごうりゅう」の受注は、幻に終わった。首脳同士の絆のもとで日本は勝利を疑わず、途中で変わったゲームの流れについていけなかった。勝利したフランスは自分たちが劣勢にあることを認識し、現地の事情に通じた人材を獲得、弱点を地道に克服して勝負をひっくり返した。

本格的な国際競争へ

 2014年11月、フランスのル・ドリアン国防相は初めて豪州を訪れた。豪州の次期潜水艦の受注を獲得しにいくことを決めた仏政府系造船DCNSのトップ、エルベ・ギウ氏に促されての訪豪だった。国防相が飛んだのは、首都のキャンベラやシドニーではなく、南西部の都市アルバニー。そこは第1次世界大戦中、西部戦線に展開したフランス軍の応援に、豪軍が兵士を送り出した場所だった。

 ル・ドリアン国防相は豪政府の主要閣僚とともに、100年前の悲しい出来事を称えた。「国防相はその重要なイベントに参加することを切望した。そこで豪州のジョンストン国防相、アボット首相と話す機会を得た」と、同行した仏関係者はいう。過去を共有することで、潜水艦の協議に向けた扉が開いたと同筋は振り返る。

 豪政府は当時、自国建造は技術的リスクが高いとして、海軍の要求性能に近い海上自衛隊のそうりゅう型潜水艦を輸入する方向で日本と話を進めていた。日豪は首脳同士の仲が緊密で、中国けん制のために防衛協力を強化したいとの思いも共有しており、日本が受注することは確実とみられていた。日本の政府内では、豪州向けのそうりゅうをもじり、「ごうりゅう」プロジェクトと呼ばれていた。

 ちょうどこのころ、豪州では政治の風向きが変わり始めていた。自国の造船会社はカヌーを造る能力もない、などと発言したジョンストン国防相が12月に辞任。強権的との批判や景気減速などでアボット政権の支持率は低下した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独CPI、4月速報は+2.2% 予想上回るも伸びは

ビジネス

米GDP、第1四半期速報値0.3%減 トランプ関税

ワールド

ウクライナ、米との資源協定「24時間以内」に署名の

ビジネス

米3月PCE価格2.3%上昇、前月から鈍化も予想上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 2
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・ロマエとは「別の役割」が...専門家が驚きの発見
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 7
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 8
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 9
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 10
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中