最新記事

難民

その難民はなぜ死んだのか、入管収容所の現実

昨年1年間に自殺未遂や自傷事件が14件発生した東京入国管理局という「監獄」

2016年3月9日(水)10時52分

祖国スリランカの海沿いの町に夫の無事を祈る妻を残し、およそ1年3カ月前、ニクラス・フェルナンド(当時57)が急死したのは、東京・品川にある東京入国管理局の収容所内だった。写真はフェルナンドの遺影と嘆く妻。スリランカのチラウで2015年11月撮影(2016年 ロイター/Dinuka Liyanawatte)

 祖国スリランカの海沿いの町に夫の無事を祈る妻を残し、およそ1年3カ月前、ニクラス・フェルナンド(当時57)が急死したのは、東京・品川にある東京入国管理局の収容所内だった。

 日本に到着してわずか10日後の2014年11月22日、施設に収容されていたニクラスは胸の痛みを訴え治療を求めたが、病院には搬送されず、その数時間後に息を引き取った。急性心筋梗塞だった。

 「(収容所側の対応に)重大な落ち度はなかった」。法務省入管当局は彼の死亡についてこう結論づけた。他の多くの被収容者のケースと同様、この事案は管理責任が明確に問われることなく、同氏の家族への詳細な説明も行われないまま処理された。

 ニクラスが死に至る過程で、何が起きたのか。

 ロイターが収容所内の目撃者、多くの被収容者、医師、弁護士への取材や独自に確認した資料をもとに行った調査からは、入管当局の説明にはないさまざまな問題が浮かび上がってきた。

 取材に応じた人々の多くは、収容所の警備官がニクラスに起きた異変を正しく判断すれば、救命できる可能性もあったと証言する。

 さらに、収容所では被収容者の健康悪化、精神障害、突然の死亡などを防ぐため医療体制の整備が急務になっているが、公的な監視機関、日本弁護士連合会などからの再三の改善要請にもかかわらず、当局の対応は遅々として進んでいない、という実態も明らかになった。

ガラス越しの最後の面会

 入国管理局は、収容命令を受けたり、本国への送還措置が決まった外国人を収容所に入れ監視下に置く。厳重な警備が敷かれた施設内では、自殺を含む死亡事故、自傷事件、あるいは拘禁状態が長期間続くことによる精神疾患の発生が後を絶たない。

 法務省によると、全国17の施設に収容されているのは1070人(2015年11月1日時点)。これらの施設では過去10年間に4件の自殺があり、12人が収容中に死亡した。最も新しい事例であるニクラスを含め、4人の死亡事案は2014年11月までの13カ月間に起きている。これ以降、死亡事案はないが、自殺未遂や自傷事件は東京入国管理局で14件(2015年)発生している。

 ニクラスの急死は、こうした日本の入管収容施設の厳しい現実をあらためて物語っている。

 ロイターの取材によると、彼がスリランカを離れたのは、日本で難民申請をしている息子に会うためだった。次男ジョージ(27)は妻と一緒に同年11月12日、羽田空港に父を迎えに行った。しかし、何時間も待ったが、父は到着ゲートから出てこなかった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中