台湾問題で習近平が激しい警告――全人代の上海市代表団分科会で
これに対し、CCTVでは大陸側の絶賛を伝えるとともに、台湾の国民党議員や民進党の若者の声も伝えた。民進党の若者は、蔡英文・次期総統が「九二コンセンサス」に対して「明確な意思表示をしていない」などと、大陸側が言わせたい声を伝えた。
新五カ年計画に中台結ぶ高速鉄道
3月5日午前の政府活動報告で李克強首相が新五カ年計画(2016年~2020年)を発表したあと、その詳細に関して多くの情報が出ている。
その中の一つに中国と台湾を結ぶ「中台高速鉄道建設」計画がある。
8万字から成る新五カ年計画なので、筆者も実物の全文に全て目を通しているわけではないが、たとえば「中華論壇」やその他多くのウェブサイトなどが「京台(北京‐台北)鉄道」計画が新五か年計画に記入されたと報じている。
もともと福建省福州と台湾の台北をつなぐ高速鉄道に関しては、馬英九氏が総統に当選した2008年から提案され、「九二コンセンサス」の象徴として中台間で話し合われてきた。
台湾人の抵抗勢力の抗議に遭い、なかなか実現されないままになっていたが、新五カ年計画の一環として正式に書きこまれたとなれば、実現に向かって一歩、踏み込んだことになる。
海底トンネルにするのか橋を架けるのかは、まだ不明だが、中台鉄道は「北京-台北」を結ぶ鉄道として位置づけられているので、これはまさに「中台統一」を鉄道から実現させようという計画だということになろう。
台湾では「大陸の勝手にはさせない」と厳しい反発の声が広がっており、特に習近平国家主席の上海代表団分科会における講話と絡めて「両岸統一を加速させようとするシグナルだ」として抗議運動が起きている。
二つの百年
習近平政権には「二つの百年」という、壮大な計画がある。
2020年と2050年が、その二つで、2021年が中国共産党建党100年であることから、キリのいいところで2020年を最初の「百年」にした。これは習近平政権期間内である。
したがって新五カ年計画は、習近平政権が「一つ目の百年」を輝かしく飾るエポック・メイキングな年とならなければならないはずだ。
しかし台湾にはまもなく民進党政権が誕生する。それにより、習近平が描く「中国の夢」の一つは、まず台湾問題で挫折しそうだ。
それを食い止めるために行なったのが上海市代表団分科会における習近平講話とみなすことができる。こういったことは、これまでに見られない異例の現象なので、習近平の心の焦りをうかがい知ることができる。
ちなみに、もう一つの百年は中国建国100周年記念である2049年を、キリのいいところで切った「2050年」である。2050年までは生きていないだろうから、習近平国家主席としては2020年の一つ目の百年に全てを賭けている。
習近平政権の焦りは、ここにも表れていると言えよう。
[執筆者]
遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。