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中朝関係

習近平氏による訪朝――中国に残された選択

2016年2月9日(火)18時23分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 一方、「大国」としての中国が国連の制裁決議に賛同しないことは、国際社会においては許されない状態にあるだろう。

 そこで、最後に残った選択として、中朝首脳会談を交換条件として、せめて六者会談の座席に北朝鮮を座らせることなのだが、これまでの経緯から見て、金正恩がおめおめと北京詣でなどすることは考えにくい。

 武大偉氏が、なぜこの期に及んで訪朝などをしたのかというと、この条件交渉のためとしか考えられない。

 すると、最後に残るのは、「習近平国家主席が訪朝して中朝首脳会談を開催する」というシナリオだ。

 北朝鮮が、まるで中国をターゲットとしているとしか思えないような挑発を続けているのは、「中国を追いこんで習近平を動かす」ためだろうと思われる。武大偉氏が頭を下げてきたので、北朝鮮としてはもっと図に乗り、もっと中国を追いつめることができると踏み、中国の春節連休期間に照準を当て困らせてやった。

中国を通して、アメリカを動かす

 その結果、いよいよ打つ手をなくした習近平氏が訪朝すれば、金正恩氏は大いに面目を施し、先ずは目的の一つを叶えることができる。そのときに習近平氏に対して、金正恩氏はきっと「アメリカを動かすように」条件闘争をしてくるにちがいない。 

 北朝鮮が核実験やミサイル開発を行なうのは、「いざアメリカから攻撃を受けたときに自国を守る手段」としての抑止力のためというのが北朝鮮の言い分だろうが、「まだ戦争中である韓国」に米軍がいるということは、北朝鮮にとっては、朝鮮戦争(1950年~1953年)は休戦状態にあると言っても、依然、戦争中であることを意味する。

 その韓国と中国が1992年に国交を正常化させたことは、中国が北朝鮮にとって(まだ闘っているに等しい)最大の敵国と国交を結んだということになり、中国を裏切り者と北朝鮮は激怒した。なんといってもそのとき北朝鮮は「それなら台湾と国交を結んでやる!」と叫んだのだから。

 習近平氏が訪朝したところで、北朝鮮の中国への挑発度はいくらか抑えられるだろうが、もう今となってはミサイル開発と核実験を北朝鮮がやめることは考えにくい。となれば習氏が訪朝しても大きく情勢が変わるわけではないことになるが、それでも戦争に突き進むのを抑止する効果くらいはあるだろう。

 北朝鮮が中国を追い詰める戦略は、成功していると言えるのかもしれない。

 すさんでしまった弟分をなだめるためには、もう兄貴分の方がせめて折れるしかない。まずは兄弟間で「内紛」を解決してから、国際社会に向き合うしか道が残ってないのではないだろうか。

 韓国に米軍が駐留するのを望んでいるのは韓国の方だという側面もあるわけだから、やはり決断を迫られているのは、中国だということになろう。

[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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