2016年米大統領選挙とシンクタンク
ただし、いずれの候補であっても、喜んでアドバイスを提供するつもりです。共和党候補にアドバイスを提供することもあるかもしれません。現在、共和党系のマケイン・インスティテュート(McCain Institute for International Leadership)を運営している、元NATO大使のカート・ヴォルカーとは付き合いがあり、昨年もイラクやアフガニスタンにおけるパブリック・ディプロマシーについての研究プロジェクトを共同で実施しています。彼から共和党候補に日米関係に関する助言を提供してくれと頼まれれば、喜んで応じるでしょう。
宮田 大統領選挙に関連して、今日も米国民の多くは政治におけるアイディアの可能性に楽観的でしょうか。言い換えると、現在においても米国民の間でアイディアをもった政治家を好む傾向は観察できるでしょうか。
ベイツ かつてレーガンは説得力のあるアイディアを提示し、人々から支持されました。ロス・ペローも同様でした。人々はペローのアイディアに期待しました。彼らの対極に位置するのが、ジョン・コナリーという共和党の政治家です。コナリーは一九八〇年大統領選挙の共和党候補争いで現在の金額にして三五〇〇万ドルもの大金を投じましたが、最終的に獲得できた代議員はわずか一名でした。コナリーには、人々を魅了するアイディアがありませんでした。
このような傾向は現在においても観察できます。勿論、一部で政治そのものへの不信感はあります。しかし、無名の政治家から一気に大統領にまで上り詰めたバラク・オバマの運動を見れば分かるように、現在においても政治におけるアイディアに楽観的であり、米国民の多くは説得力のあるアイディアをもった政治家に魅了されます。
今回の大統領選挙に関して言うと、ジェブ・ブッシュには資金力があります。しかし、人々を興奮させるような政治家ではありません。ブッシュが共和党候補争いを勝ち抜けるかは疑問です。ヒラリー・クリントンも注意すべきでしょう。泡沫扱いされていたバーニー・サンダースが今や二五パーセントもの支持を獲得しています。サンダースは人々の想像力を掴んでいます。
【参考記事】サンダースを熱狂的に支持する若者たちは、民主主義を信じていない
米国外交と米国世論
宮田 民主党内の一部で、反戦の態度が余りにも強く安全保障について語ることを避けようとする傾向もあり、心配しています。ベイツ先生はどうお考えでしょうか。
ベイツ そのような傾向は、民主党内だけでなく実は共和党内でも見られます。過去一五年あまり、グローバル・セキュリティに掛かるコストのほとんどを米国民が一身に引き受けてきました。その結果、国際社会においてリーダーシップを発揮し続けることに対して米国民の間で疲れが生じています。それはシリア情勢への関心の低さに象徴されていますが、この内向きとも言える風潮は左右両派に見られ、共和党内でも対外的関与に批判的なリバタリアンなどが勢いを得ています。勿論、自分も米国世論の現状について心配しています。
米国のリーダーシップは、明らかに国際社会の平和と安定の礎であり続けてきました。アジアにおける平和と繁栄も、過去六〇年にわたるこの地域での米国の積極的なプレゼンスによって支えられたものでした。そして、二一世紀の国際社会がどういった世界になるかも、太平洋地域における米国のエンゲージメントと同盟国とのパートナーシップに懸かっています。台頭する中国がこの先どこへ向かうかも、我々の対応次第で変わってきます。
最後に、日本の人々に向けてこの点を強調しておきたいと思います。数年前、日本の大学生と懇談した際、「日本にはカナダのような国になって欲しい」との発言を聞きました。自分は本当に驚き、「カナダを模範としてはいけません。日本は大国であり、力のある国です」と強く訴えました。米国は、大国である日本の助けを必要としています。パンデミック、移民、自然災害、安全保障といった様々なグローバルな課題に対処していく上で、日米の協力は欠かせません。課せられた責任は非常に重く、そうした責任から逃れてはいけないのです。
二〇一五年七月三〇日
(ガーデンコートクラブにて)
[注]
ベイツ氏のコメントに関連し、ワシントン・ポスト紙は次の記事で各共和党候補の動向を詳しく紹介している。Phillip Rucker and Robert Costa, "In the 'credentials caucus,' GOP's 2016 hopefuls study policy and seek advisers," Washington Post, April 6, 2014.
[インタビュイー]
スコット・ベイツ Scott Bates
1965年生まれ。ヴァージニア大学ロースクール修了。ヴァージニア州務長官などを務めた後、2003年に下院国土安全保障特別委員会上級政策顧問に就任。同委員会のために『テロとの戦いに勝利する(Winning the War on Terror )』を執筆。その後、全米民主国際研究所(NDI)上級顧問、国防大学客員教授、国家政策センター副所長兼上級研究員等を務め、2012年から国家政策センター理事長。
[インタビュアー]
宮田智之 Tomoyuki Miyata
1975年生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。博士(法学)。在米日本大使館専門調査員、東京大学アメリカ太平洋地域研究センター助教等を経て、現在、國學院大学兼任講師。専攻はアメリカ政治(主にシンクタンク研究)。主な論文に、「アメリカにおけるシンクタンクの政治的影響力―教育改革を事例に」(『東京大学アメリカ太平洋研究』第13号、2013年)他。
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