南西諸島を軍事拠点化する日本版「A2AD」、中国の海洋進出に対抗
このうち南シナ海が中国の勢力圏に入りつつある今、鹿児島県・大隅諸島から沖縄県・先島諸島を通り、マレーシアのボルネオ島まで連なる島々が、これまで以上に戦略的な重要性を帯びてくる。中国が「第一列島線」と呼び、米国に対する防御線と位置づけているラインだ。
「今後5、6年で第一列島線が日米同盟と中国の間の軍事バランスを左右することになるだろう」と、中谷元防衛相の政策参与で、自身も民主党政権時代に防衛相だった森本敏氏は指摘する。
ミサイルで「拒否力」狙う
それまでに態勢を整備しようと、日本は第一列島線のうち、自国領内の南西諸島の軍事拠点化を進めている。 鹿児島県の奄美大島に550人、沖縄県の与那国島に150人、宮古島に700─800人、石垣島に500─600人の部隊を置く予定だ。
これまで沖縄本島以南には、宮古島と久米島に航空自衛隊のレーダー基地がある程度だった。防衛省は、この空白地帯に警備部隊や監視部隊を編成することで、離島に侵攻された場合の初動態勢を整えると説明している。
しかし、配備するのは警備や監視部隊だけではない。奄美大島、宮古島、石垣島には対空・対艦ミサイル部隊も展開する。日本の防衛政策を南方重視に変えた民主党政権で、党の安全保障調査会事務局長として防衛大綱策定に関わった長島昭久衆院議員は「A2ADというきっちりとした考え方ではなかったが、南西方面に拠点を造り、ミサイルを展開して(相手が接近できないようにする)拒否力をつけようとした」と振り返る。
旧ソ連の侵攻に備えて開発された射程180キロの地対艦ミサイルなら、沖縄本島と宮古島の間に横たわる350キロの宮古海峡もカバーできるようになると、元陸将で笹川平和財団参与の山口昇氏は言う。
中国が構築しているとされる軍事戦略・A2ADは、対空・対艦、弾道ミサイルを沿岸部や内陸に大量に配備。潜水艦や戦闘機などと連携し、有事に米軍の艦船や航空機を中国本土に近づけさせない、近づいても自由に活動させないことを狙っている。
人民解放軍は今年9月の「抗日戦争勝利70周年」軍事パレードで、艦載機と合わせて50億ドルの米空母を破壊可能とされる対艦ミサイル「東風21D」を披露した。
米議会は、中国が第一列島線を射程に収める短・中距離ミサイル1200発を保有していると分析する。さらに中国は潜水艦を増強、レーダーを回避できる地上発射型の弾道ミサイルの開発にも取り組んでいる。
航空優勢、海上優勢
南西方面の防衛力を強化する方針は、2012年末に発足した第2次安倍晋三政権にも引き継がれたが、新たに策定された防衛大綱の中に「海上優勢」、「航空優勢」という単語が盛り込まれた。