南西諸島を軍事拠点化する日本版「A2AD」、中国の海洋進出に対抗
敵の艦船や航空機の活動を制限した状態を指す軍事用語で、中国が構築を目指しているA2ADと同じ概念だ。
「我々はA2ADではなく、航空優勢、海上優勢という言葉を使った」と、今年10月まで安全保障担当の首相補佐官を務めた礒崎陽輔参院議員は言う。「米軍と一体となって一定の海域、空域で優勢が確保できるようにすることを念頭に置いた」と話す。
日本は新型哨戒機や無人偵察機の調達のほか、潜水艦部隊を増強することを決定した。ステルス性の高いF35戦闘機や新型輸送機オスプレイの取得、水陸機動団の新設も進めている。
平時の警戒監視を手厚くして軍事的空白を埋める一方、いざとなれば短時間で戦力を集中し、島に配備されたミサイル部隊と連携しながら、中国軍を東シナ海で自由に動けなくするのが狙いだ。
中国海軍の動向を研究する米海軍大学のトシ・ヨシハラ教授は、東シナ海から西太平洋にわたる海域で自衛隊が果たす役割の重要性を指摘する。有事の際に中国軍の作戦を制限できれば、米軍の活動の自由度が増すだけでなく、米軍が来援する時間を稼げるとみる。「日本は情勢をひっくり返そうとしている」と、ヨシハラ教授は言う。
国防費を大幅に削減する一方、中東問題から抜け出せない米国が、一国で中国の膨張を止めることは難しくなりつつある。アジア太平洋地域の友好国との関係強化が不可欠になっており、米海軍第7艦隊のアーコイン司令官は日本の動きについて、米軍の戦略を補完するものと指摘する。「米軍は世界のどこであれ、同盟国・友好国、そして潜在的な敵国の能力と戦力を考慮して作戦を立案する」と話す。
一方、中国は警戒を隠さない。中国国防省はロイターの取材に「いかなる日本の軍事的な動きも、近隣諸国の不安を呼ぶ」としている。
運べなかったミサイル
とはいえ、今はまだ机上の構想にすぎない。1つ1つの島が小さな南西諸島には大規模な戦力を常駐させることはできないため、緊急時には本土から素早く部隊を移動させる必要がある。
輸送手段を持たない陸上自衛隊の部隊や装備を、航空自衛隊と海上自衛隊が効率的に運ぶ統合運用がカギを握る。