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環境パリが気候変動のラストチャンスだ
ポスト京都の枠組み作りでは政治的思惑が絡んで難航が続くが、「2度以内」の目標はタイムリミット間近
迫り来る危機 グリーンランド氷床がすべて解ければ海面は7メートル上昇する Joe Raedle/Getty Images
今月末からフランスのパリで国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)が開催される。今後何世紀にもわたって、何十億人もの命と数知れない絶滅危惧種の動植物の運命を左右する重要な会議だ。
国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)は92年にブラジルのリオデジャネイロで開催された「地球サミット(環境と開発に関する国連会議)」で採択され、現在アメリカ、中国など196カ国・地域が締約。大気中の二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの濃度を「気候システムに対して危険な人為的干渉を及ぼさない水準」で安定させることで合意している。
しかし合意内容はいまだ実現に至っておらず、さまざまな気候の悪循環が温暖化を増幅させる恐れがある。太陽光を反射する北極の氷が減少し、海はさらに熱を吸収するだろう。融解の進むシベリアの永久凍土からは大量のメタンが放出される。その結果、現在数十億人が暮らす広大なエリアが居住不能になりかねない。
以前の締約国会議では、97年のCOP3で採択された京都議定書のように温室効果ガス排出削減の法的拘束力を持つ合意を目指していた。しかしブッシュ前政権時にアメリカが非協力的だったせいもあり、09年にコペンハーゲンで開催されたCOP15では「ポスト京都議定書」を採択できず、各国が自主的な排出削減目標・行動を決めて提出するよう求めるにとどまった。
主要排出国を含む154カ国が削減目標・行動を提出済みだが、いずれも必要な水準には程遠い。どのくらい懸け離れているかを理解するには、92年に全会一致で採択されたリオ宣言に立ち返る必要がある。
リオ宣言の表現には曖昧な点が2つあった。第1に何をもって「気候システムに対する危険な人為的干渉」とするか。第2に「及ぼさない水準」とはどの程度の安全性を想定しているのかだ。
前者については、COP15で気温上昇を産業革命以前と比べて2度以内に抑えることで合意したが、多くの研究者はそれでもまだ不十分と考えている。これまでの0.8度の上昇でも記録的な猛暑、異常気象、グリーンランド氷床の融解が起きている(氷床全体が解ければ地球の海面は7メートル上昇する)。COP15では海面上昇で水没の恐れもある小島嶼国グループが目標を1.5度未満にすべきだと訴えたが、先進国は政治的に見て現実的でないと考えた。
菜食中心の食生活を奨励
第2の曖昧さは依然として残る。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのグランサム気候変動・環境研究所は154カ国が提出した目標を分析し、すべて実現しても温室効果ガスの年間排出量(CO2換算)は現在の500億トンから30年には550億~600億トンに増加すると結論付けた。気温上昇を2度以内に抑える確率を50%にするためだけでも、年間排出量を360億トンまで減らす必要がある。
憂慮すべき指摘はオーストラリアからも出ている。現在の大気中の温室効果ガスの濃度を考えれば、仮に(非現実的だが)今すぐ排出量をゼロにしたとしても、気温上昇幅が2度を超える可能性は10%あるという。
もしも航空会社が整備を大幅に簡略化して事故に遭う確率が10%になったらどうなるか。この会社は安全対策を怠ったことになり、いくら運賃が格安でも利用する客はほとんどいないはずだ。それと同じで、「気候システムに対する危険な人為的干渉」が招く惨事の規模を思えば、2度を超える気温上昇のリスクはたとえ10%であっても受け入れてはならない。
途上国は貧困問題の解決のために安いエネルギーが必要で、浪費しがちな富裕国こそが省エネ努力をすべきだと主張するはずだ。もっともな主張であり、富裕国は早急に、遅くとも50年までに経済の脱炭素化を図らなければならない。手始めに、最大の排出源である石炭火力発電所を閉鎖し、炭鉱の新規開発を許可しないという方法もある。
菜食中心の食生活を奨励するのも即効性が期待できる。肉に課税し、その税収をより持続可能な食品の補助金に充てるなどの手段だ。国連食糧農業機関(FAO)によれば畜産業は輸送業全体を上回る温室効果ガス排出源。つまり温室効果ガス排出量を減らす余地が大いにあり、化石燃料の使用をやめるのに比べれば生活への影響も少ない。しかも加工肉と赤肉の消費で癌による死亡リスクが上昇するとの報告がWHO(世界保健機関)から出たばかりだ。
以上の提案は非現実的に思えるかもしれない。しかしここまでしなくては、現在そして未来の地球に暮らす何十億という人々に対しても、地球の自然環境全体に対しても、罪を犯すことになる。
@Project Syndicate
[2015年12月 1日号掲載]