最新記事

南シナ海

南シナ海問題、国際仲裁手続きへ 中国は反発

ハーグの常設仲裁裁判所が、フィリピン政府の申し立てを受けて手続きを進めることを決定

2015年10月30日(金)15時39分

10月29日、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は、フィリピンが申し立てていた南シナ海をめぐる中国との紛争の仲裁手続きを進め、今後フィリピン側の言い分を検討するための聴聞会を開くことを決めた。フィリピン国旗をつけた船、南シナ海で3月撮影(2015年 ロイター/Erik De Castro)

 オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は29日、フィリピン政府が申し立てていた南シナ海をめぐる中国との紛争の仲裁手続きを進めることを決めた。今後、フィリピン側の主張を検討するための聴聞会を開く。フィリピン政府は決定を歓迎。一方、中国は、仲裁手続きを受け入れない姿勢を示した。

 中国は、関係国間の交渉による解決を唱え、仲裁裁判所に管轄権はないとして仲裁手続きを一貫して拒否していた。南シナ海の領有権問題では、フィリピンのほか、ベトナムや台湾、マレーシア、ブルネイなどとも対立している。

 仲裁裁判所は今回、フィリピンが国連海洋法条約に基づいて申請した7件の事項を取り上げる権限があり、中国が仲裁手続きをボイコットしているからといって裁判所の管轄権がなくなるわけではないとの判断を示した。

 米国防当局者は、仲裁裁判所の決定に歓迎の意を表明。「南シナ海の紛争に対する国際法の有効性が示されている。各国の領有権には論争の余地がないわけではなく、国際法と国際的慣行を基礎にしたこうした判断は、紛争を解決しないまでも管理を実現できる1つの方法といえる」と述べた。

 フィリピンの同盟国でもある米国は今週、南シナ海にある中国が埋め立て工事をした人工島の12カイリ以内に海軍艦艇を派遣する「航行の自由」作戦を実施した。

 また米国務省のカービー報道官は定例会見で、仲裁裁判所の決定はフィリピンと中国の双方に法的拘束力を持つとの見方を示した。

 米上院軍事委員会のマケイン委員長も裁判所の決定を称賛した上で、米政府は航行の自由作戦を定期的に行うことなどで今後もフィリピンなどの同盟国や連携する国を支援するべきだと強調した。

 中国は仲裁手続きを受け入れない姿勢だ。

 劉振民外務次官は、記者団に、「今回の決定は、南シナ海をめぐる歴史の事実と国際法に基づく中国の権利、主権に影響を及ぼすものでない」と述べ、フィリピンの目的は紛争の解決でなく、南シナ海における中国の権利を否定し自らの権利を確認することであることが、今回明らかになったと指摘した。

 米戦略国際問題研究所(CSIS)の南シナ海専門家、ボニー・グレーザー氏は、フィリピンはこの問題で中国と十分な交渉をしていないとする中国側の主張が裁判所の見解で明確に否定された点を踏まえると、中国にとっては大打撃だとみている。

[アムステルダム 29日 ロイター]

120x28 Reuters.gif
Copyright (C) 2015トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国大統領、ウクライナ支援継続表明 平和サミット出

ビジネス

エーザイ、内藤景介氏が代表執行役専務に昇格 35歳

ビジネス

シャオミ、中国8位の新興EVメーカーに 初モデル好

ワールド

焦点:米の新たな対中関税、メキシコやベトナム経由で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中