南シナ海、民間人の「入植」が対中国の切り札か
<定期クルーズ船も>
中国は2012年に西沙(英語名パラセル)諸島の永興(同ウッディー)島に海南省下の市政府を置き、南シナ海一帯での行政機構整備を加速させた。西沙諸島は1974年以降、中国が実効支配しているが、ベトナムなども領有権を主張している。
現在、中国本土の旅行者は海南島からの定期クルーズ船で永興島に行くことができる。旅行会社のウェブサイトには「中国の最も美しい庭に足を踏み入れることは、わが国の主権を宣言することだ」と書いてある。
中国南海研究院の呉士存院長はロイターに対し、今年に入って永興島を訪れた際、人口が数百人に増加し、道路やごみ収集施設の建設が進んでいたと話した。小学校や病院のほか、漁師の家族が買い物できる店も複数あるという。
フィリピンが実効支配する南沙諸島のパグアサ島とはかなり対照的だ。同島では、約135人の兵士や一般市民が共同で野菜を作るなどして生活を送っている。1年前に夫と息子と一緒に同島にやって来たというロベリン・フーゴさん(22)は「すべて無料なので生活できる」と語った。
<単なる岩礁>
一方、ベトナム国営メディアによると、同国が実効支配を続ける南沙諸島のサウスウエスト島では今月、小学校が開校した。同諸島で過去2年間にべトナムが建てた学校は3校目となる。診療所も改良工事が行われているという。
国連海洋法条約の下では、一般市民の人口や経済活動を維持するために必要な島の能力は、200海里の排他的経済水域(EEZ)を主張できるかどうかを判断するのに必要不可欠だと、弁護士たちは指摘する。
主張できない場合、法的には単なる岩礁とみなされるという。
オーストラリアの法律専門家クリーブ・スコフィールド氏は、埋め立て地に民間人を置くだけではEEZを主張するのに十分ではないと指摘。「市民の人口がいかに拡大しようとも、どのような経済活動が行われていようとも、法的性質は変わらないだろう」と述べた。
こうした法律な話はパグアサ島での生活からは程遠いかもしれないが、領有権をめぐる中国の動きを避けることは難しい。
夜になると、20キロ先で中国が埋め立て作業を進める渚碧(同スービ)礁の明かりが見える。
「ラジオが伝えるここの状況は恐ろしい。島を離れる準備はできている」とフーゴさんは語った。
(Greg Torode記者、Manuel Mogato記者、翻訳:伊藤典子、編集:宮井伸明)