最新記事

中国

南シナ海、民間人の「入植」が対中国の切り札か

2015年6月1日(月)14時22分

<定期クルーズ船も>

中国は2012年に西沙(英語名パラセル)諸島の永興(同ウッディー)島に海南省下の市政府を置き、南シナ海一帯での行政機構整備を加速させた。西沙諸島は1974年以降、中国が実効支配しているが、ベトナムなども領有権を主張している。

現在、中国本土の旅行者は海南島からの定期クルーズ船で永興島に行くことができる。旅行会社のウェブサイトには「中国の最も美しい庭に足を踏み入れることは、わが国の主権を宣言することだ」と書いてある。

中国南海研究院の呉士存院長はロイターに対し、今年に入って永興島を訪れた際、人口が数百人に増加し、道路やごみ収集施設の建設が進んでいたと話した。小学校や病院のほか、漁師の家族が買い物できる店も複数あるという。

フィリピンが実効支配する南沙諸島のパグアサ島とはかなり対照的だ。同島では、約135人の兵士や一般市民が共同で野菜を作るなどして生活を送っている。1年前に夫と息子と一緒に同島にやって来たというロベリン・フーゴさん(22)は「すべて無料なので生活できる」と語った。

<単なる岩礁>

一方、ベトナム国営メディアによると、同国が実効支配を続ける南沙諸島のサウスウエスト島では今月、小学校が開校した。同諸島で過去2年間にべトナムが建てた学校は3校目となる。診療所も改良工事が行われているという。

国連海洋法条約の下では、一般市民の人口や経済活動を維持するために必要な島の能力は、200海里の排他的経済水域(EEZ)を主張できるかどうかを判断するのに必要不可欠だと、弁護士たちは指摘する。

主張できない場合、法的には単なる岩礁とみなされるという。

オーストラリアの法律専門家クリーブ・スコフィールド氏は、埋め立て地に民間人を置くだけではEEZを主張するのに十分ではないと指摘。「市民の人口がいかに拡大しようとも、どのような経済活動が行われていようとも、法的性質は変わらないだろう」と述べた。

こうした法律な話はパグアサ島での生活からは程遠いかもしれないが、領有権をめぐる中国の動きを避けることは難しい。

夜になると、20キロ先で中国が埋め立て作業を進める渚碧(同スービ)礁の明かりが見える。

「ラジオが伝えるここの状況は恐ろしい。島を離れる準備はできている」とフーゴさんは語った。

(Greg Torode記者、Manuel Mogato記者、翻訳:伊藤典子、編集:宮井伸明)


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2015トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中