最新記事

中東

イスラエルがこだわる「報復の原則」が生む悲劇

2014年7月16日(水)14時50分
ウィリアム・サレタン(スレート誌コラムニスト)

 ネタニヤフはさらにパレスチナ自治政府のアッバス議長にまで怒りの矛先を向けている。アッバスは誘拐を非難し、イスラエルの捜査に協力してきた。それなのに「誘拐がパレスチナで起きたのなら自治政府の責任だ」と、ネタニヤフ政権の閣僚は言う。イスラエルの報復の原則に基づいた、一方的なこじつけだ。
 こうしたパレスチナに対する挑発は単なる脅しではない。6月中旬以降、イスラエルはハマス掃討作戦を展開している。

 イスラエル軍はパレスチナ自治区ヨルダン川西岸ヘブロン一帯を1週間にわたって封鎖。家宅捜索を実施し、400人以上の身柄を拘束した。少年らを誘拐したとみられる2人の家を、家族が住んでいるのに爆破(容疑者は発見できず)。さらにガザ地区への空爆も開始し、「ハマスが止めないなら、われわれが阻止する」とネタニヤフは息巻いた。

 そして、今度はパレスチナ人の少年が殺害された。犯人はイスラエル人と決まったわけではない。それでも報復の報復を恐れるイスラエル当局はパレスチナ人に対し、むやみにユダヤ人を非難しないよう要求した。

 3人の少年が消息を絶った後、イスラエルが怒りに駆られず、もっと自制してさえいれば......。いや、もっと早くに報復の原則を捨てていれば、4人の若い命が犠牲になることはなかっただろうか。残念ながらそうとも言い切れない。だが報復合戦を永遠に続けることでイスラエルが救われるとも思えない。

© 2014, Slate

[2014年7月15日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国スタートアップ、IPO凍結で投資家の償還請求に

ビジネス

米国債価格が上昇、財務長官にベッセント氏指名で

ワールド

プラスチック条約、最後の政府間議始まる 米の姿勢変

ビジネス

米財務長官指名のベッセント氏、減税と関税が優先事項
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中