最新記事

中国軍事

中国は超大国と張り合わず

軍事大国を目指すより米軍の介入を防いで「核心的利益」を守る──それが中国の思惑だ

2014年4月21日(月)12時51分
ハリー・カジアニス(ナショナル・インタレスト誌副編集長)

圧倒的兵力 中国の活発な海洋進出をにらみつつ、西太平洋上で監視活動を行う米海軍第7艦隊の空母打撃群 DECLAN BARNES-U.S. NAVY

 台湾の英字ニュースサイトに興味深い記事が載った。中国の軍備拡大とその現状と今後を検証した記事だ。「人民解放軍は高度な兵器システムを次々に導入しているが、世界最強の軍隊となり......米軍に対抗するには最低30年かかる」と執筆者は推測している。

 米中の軍事力を比べるなら、陸海空軍の装備や兵力を詳細に比較検討する必要がある。だが、そんな比較に意味があるのか。中国が米軍に追い付こうとしていないのは明白だ。

 考えてみてほしい。現代の軍隊は何らかの目標を想定して編成される。中国の軍備増強の場合は、何らかの紛争に対する米軍の介入を想定したもの。いわゆる「接近阻止・領域拒否(A2AD)」である。中国は「情報化された条件下での局地戦争」で勝てるよう軍拡を進めているとも言われる。

 米軍の介入が予想されるケースは限られており、中国は航空機や船舶の保有数で米軍に対抗する必要はない。そして、少なくとも今のところは中国政府はこの状況に満足している。

 要するに、中国は軍備でアメリカと完全に肩を並べる必要はない。自国の「核心的利益」さえ守れればそれでいい。非対称的な備えで済むなら、中国にとってはそのほうが好都合だ。現に、中国が紛争を抱えているどの場所を見てもアメリカとの全面的な直接対決を想定した布陣は1つもない。

 例えば陸軍。中国が地上戦を戦うとすれば、相手はどこか。中央アジア諸国は中国には友好的で、差し迫った脅威ではなさそうだ。ロシアとの関係も至って良好。この2大国が争う確率はほぼゼロだ。実際、ロシアに対抗する必要がないからこそ、中国は安心して他方面の軍拡に資源を投入してきたのだ。

 中国は当面、国連の平和維持活動以外、外国に軍隊を派遣する気はなさそうだ。米軍と戦う気がないことは言うまでもない。差し迫った脅威がないのに、地上部隊に多額の予算を投じるのは資源の無駄だろう。確かに、地上戦に備えた軍備のハイテク化も進めているが、それほど急いでいる気配はない。

 ならば、海軍力はどうか。海上防衛こそまさしく中国が注力してきた分野だ。南シナ海に目をやれば、中国と領有権問題で対峙している国々は(台湾を除いて)、軍備では中国に到底かなわない。例えばフィリピン海軍が保有するのはせいぜい米沿岸警備隊の払い下げ船。中国の最新鋭の駆逐艦や地上配備型ミサイルには歯が立たない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米下院民主議員、ケネディ厚生長官を調査 鳥インフル

ビジネス

米建設支出、2月は前月比0.7%増 予想上回る

ワールド

米民主党主導州、トランプ政権を提訴 医療補助金11

ビジネス

米ISM製造業景気指数、3月は50割り込む 支払い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中