どん底イタリアに奇跡を起こす男
新ルネサンスに向けて
アメリカを軽視しているわけではない。レンツィは12年に米民主党全国大会(オバマが2期目の大統領候補に正式指名された)に出席したこともあるほど、アメリカの政治モデルを評価している。
昨年、自らがイタリア民主党書記長選に出馬したときは、イタリア全土を車で回ってアメリカ流の選挙活動を展開。支持者から資金を集めた。
イタリアが外交で手を焼く可能性がある相手はインドだ。レンツィは首相就任後早々に、インドに拘束されている2人のイタリア海兵隊員に激励の電話を入れている。
2人は12年にインド沖で漁船を海賊船と間違えて銃撃し、インド人漁師2人を殺害した事件でインド当局に拘束され、起訴されている。レンツィは彼らが帰国できるよう首相として全力を尽くすと約束したが、インドとの間に生じたわだかまりは簡単には解けそうにない。
国内にも敵はいる。お笑い芸人ベッペ・グリッロ率いる「五つ星運動」などの小政党は、レンツィが有力財界人を優遇していると批判。五つ星運動は、レンツィが連立内閣を組閣するときも協力を断った。
レンツィは民主党の長老たちを「老害」として一掃するなど、党内にも不協和音を生んでいる。おかげでメディアに「壊し屋」と呼ばれている。
だが、レンツィは歴代首相ができなかったことをやってみせると自信満々だ。その自信がどこから来るのかは誰にも分からない。イタリアに新しいルネサンスをもたらすには、奇跡が必要だという声もあるが。
右腕のデルリオに言わせれば、思いどおりの改革を実現できるかどうかは決断力と、政権を長期間維持できるかどうかに懸かっている。「政治を取り巻く状況は変わった。レンツィが掲げる重点政策の内容と、現政権が上下院の任期満了(18年)まで続くべきだという点は誰もが同意している」
その楽観論を裏付けるように、最近の世論調査では、回答者の56%が「レンツィ政権は長続きすると思う」と答えている。
首相としてのレンツィの力量は未知数。だがイタリア再生という奇跡を起こすには、国民の期待と支持が大きな支えになるのは間違いない。
[2014年3月25日号掲載]