最新記事

水産業

繁栄するタイ水産業に隠された漁業奴隷

2014年3月28日(金)12時09分
ミシェル・フロルクルス

乱獲と奴隷労働の悪循環

 こうしたタイの漁場は、世界のシーフードのかなりの部分を供給している。タイは中国とノルウェーに次ぐ世界第3の水産物輸出国であり、国連食糧農業機関(FAO)の評価によれば11年の輸出額は約73億ドル。アメリカのタイからの水産物輸入量は昨年で16億ドル以上。アメリカで消費される貝類とエビの大半は、タイなどアジア諸国で捕れたものだ。

 タイの水産業が外国から稼ぐ金の大部分は、国内の腐敗したひと握りの有力者の懐に入る。昨年にはカンタン地方で奴隷扱いされていた労働者たちが救出される事件が起き、業界全体に広がる搾取の構造が明らかになった。カンタン事件の捜査に関わったタイ警察の幹部がEJFに語ったところでは、多くの影響力のある人々から、地元の実業家を対象とする捜査の中止を要請する脅しが入ったという。

 EJFの報告はまた、タイの水産業に規制がなく、管理の水準が低いことを問題視している。タイ政府は漁船や労働者の雇用に関する基準を決め、遵守させようとしているが、いつも失敗に終わってきた。

「資源が乱獲され、漁獲量が減ってきたため、事業主は立場の弱い労働者に儲けが出るまで海で漁を続けさせる。そのくせ人件費はますます削減しようとする」と、トレントは言う。「タイ政府と世界の水産業界は、この状態を無視し続けるわけにはいかない」

 直ちに虐待をやめさせることができないのなら、レストランでタイのエビをボイコットするのが一番効果的だろう。

[2014年3月18日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国務省キャリア官僚10人超に辞任要請、トランプ氏

ビジネス

ECBによる年内3─4回の利下げ観測「妥当」=クロ

ワールド

プーチン氏、トランプ氏就任を祝福 ウクライナ巡る対

ワールド

トランプ氏、多様性政策撤廃の大統領令に署名へ=当局
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    メーガン妃とヘンリー王子の「山火事見物」に大ブーイングと擁護の声...「PR目的」「キャサリン妃なら非難されない」
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 6
    台湾侵攻にうってつけのバージ(艀)建造が露見、「…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 9
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 10
    身元特定を避け「顔の近くに手榴弾を...」北朝鮮兵士…
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 10
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中