最新記事

エジプト

クーデターで「アラブの春」は振り出しに

大規模デモの混乱を招いたとしてモルシ大統領が軍に権限を剥奪されたが、対立の火種は消えていない

2013年7月4日(木)14時52分
山田敏弘(本誌記者)、クリステン・マクタイ

国民も歓喜 軍クーデターの知らせに熱狂するタハリール広場の反モルシ派 Suhaib Salem-Reuters

 1年前、誰がこんな状況を予測できただろうか。

「アラブの春」による民衆蜂起を経て、ムスリム同胞団出身のモルシがエジプトの大統領に就任した6月30日から1年と3日目。モルシはエジプト軍によって大統領の権限を剥奪され、側近らとともに拘束された。

 かつてムバラク独裁体制に反旗を翻し民主化のため共に各地でデモを行った国民は今、モルシの退陣を求める人々と支持者とに分かれて集会を開き、両者の衝突で死傷者も出ていた。

 平和的にモルシの辞任を求める大規模な署名活動も各地で行われ、1500万人分以上の署名が集まった。ただそうした活動はデモ隊同士の衝突と、軍がモルシに突き付けた3日夜までの48時間で「混乱を収拾せよ」という最後通告でかき消されてしまった。

 モルシへの不満は経済の低迷から燃料不足、食品の値上がり、さらに治安の悪化と幅広い。政権側は、民主主義の実現には時間がかかると主張したが、署名活動団体のメンバーによれば、職権乱用と抑圧はムバラク時代と少しも変わっていないという。軍がクーデターを起こしたという知らせに、モルシ反対派が歓喜の声を上げたのはそのためだ。

 軍はモルシに代わる暫定大統領として、憲法裁判所長官のアドリ・マンルールを指名。総選挙と大統領選挙を早期に実施するとした。だがムルシ支持派の反発は激しく、混乱長期化は避けられない情勢だ。

 結局エジプトは、1年前に逆戻りしてしまったようだ。

*この記事は、本誌2013年7月9日号掲載の記事を最新の内容に更新したものです。

From GlobalPost.com特約

[2013年7月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中