「反中」台湾出身作家vs歌舞伎町案内人<3>
黄:外から中国に同情する、ということですが、中国は一方で内政干渉を嫌います。中国は社会の安定を最も重視しているし、中国にとって大切なのは人権よりも生存権。これは誰も解決できない。
中国には食糧が足りないが、日本も足りないから日本には解決できない。日本にできるのは技術支援ぐらいですよ。これは今の政権と国民が何とか自分たちで解決しなければならない。
李:できない! できませんよ。鄧小平の改革開放で私も日本に来ることができた。もし改革開放がなければ、今もきっと日本のことを「小日本(シアオリーベン)」と思っていたでしょう。経済的な交流から始まって、人と人が肌と肌で感じ合うことで、民主主義も伝わる。
最近私の店には中国の「右派」がよく来るんです。外務省とか国際交流基金の招待で、南方都市報(編集部注:リベラルな主張で知られる広東省の日刊紙)の記者などが来ている。もし中国政府が本当に交流したくないなら、出国ビザが出ないはず。だから今の中国にまったく民主主義がないわけじゃない。
黄:必ずしも中国がわれわれと同じ民主主義を求めないといけないわけではありません。かつての古代ギリシャのような民主主義もある。今中国で問題なのは、毛沢東がかつて実現した平等が鄧小平の「先富論」で崩れていること。さらに習近平が中華圏のみを念頭に置いて「中華振興」を掲げている。この夢は世界の夢とは違う。中国中心の「大中華共栄圏」より、大東亜共栄圏の方が多様性があるくらいですよ。
李:そうとは限らないですよ。今の中国は北朝鮮ではない。文化人などの間では中国政府批判も多い。
黄:それに例えば日本政府や日本財界がいくら中国を支援しても、支援し切れるものではない。
李:私が言っているのはそういうことではありません。カネじゃない。だってさっきの話ではカネは国外に流出させるほど大量にあるわけでしょう? 政府同士のメンツではなく、互いの国民のために......。
黄:李さんは知らないでしょうけど、日銀が中国支援しなかったら中国はつぶれると思いますよ。
李:知ってますよ! この間も北京に駐在していた日銀マンがうちの店に来て話をしていたのですが、中国へのODAは日本なしでは成り立たなかった。改革開放は日本円なしにはできなかった。
黄:中国の改革のためには、例えば習近平以外の、別の勢力を支援するといった方法が必要。改革の必要性を理解するかつてのゴルバチョフのような人が政権を取れば中国が変わると、中国から外に出て支援をしている人は言っています。民主化運動には期待していません。ゴルバチョフでなくても、フルシチョフのような人でもいい。
李:1人じゃだめですよ。例えそれが習近平でも李克強(首相)でも、1人では何も出来ない。私が言いたいのは、交流することが大事。中国でもインターネットで「壁越え」すれば何でも見れるし、出国も基本的には自由です。実際、日本に旅行に来たすべての中国人は、日本の美しさや便利さを理解して、口コミで日本の宣伝を始めている。
黄:私も支援できるところはしているし、(中国と)ケンカしたい訳ではない。基本的に李さんの考えは理解するが、ただそれは現実には不可能に近い。中国の民主化は台湾にとってプラスになるという考えがありましたが、直面する問題が多過ぎてなかなかすべてを変える、という訳には行かない。