最新記事

ユーロ危機

優等国オランダは欧州もう一つの火種

反緊縮で支持を伸ばす左派やEU脱退を唱える極右が躍進すれば、ユーロ救済の足並みが一気に乱れるおそれも

2012年9月11日(火)17時46分
ポール・アメス

問題山積 緊縮財政を進めてきたルッテ首相の運命は? Eric Vidal-Reuters

 オランダ人は倹約精神が強いことで知られる民族。それだけに9月12日に迫った下院総選挙でユーロ危機への対応が最大の争点になっているのも当然だろう。

 オランダ人の中産階級は、自分たちは分別ある健全財政の守り手だと自負しており、ギリシャをはじめとする南欧の財政破たん国の救済に反対するドイツ人やフィンランド人に共感している。

 欧州を覆い尽くす経済危機は、オランダ人に急進的な思想を広げる一因にもなっている。世論調査でも、イスラム教の聖典コーランを禁止する、動物の権利を憲法に明記する、レイプ被害者は妊娠しないなどと主張する候補者が支持を伸ばしている。

 とはいえ、総選挙はマーク・ルッテ首相率いる市場自由主義の与党・自由民主党と、左派野党の社会党が激突する構図になる可能性が高い。緊縮財政策に反対して支持を伸ばしている社会党が仮に政権を取れば、緊縮路線による危機封じ込めをめざしてきた欧州の基本方針が崩壊しかねないとの懸念が広がっている。
 
 先週、テレビの討論番組でユーロ危機への見解を問われたルッテは、ギリシャがすでに2度EUの金融支援を受けていることを強調した。「もうたくさんだ」と、ルッテは語った。「問題を抱えた国々は自ら最善を尽くすべきだ。そうしないなら、われわれのサポートは当てにできない」

 一方、今年に入って不況が続くオランダ経済については、慎重な物言いに終始した。南欧諸国に比べればマシとはいえ、6・5%という失業率は過去10年で最悪の水準だ。住宅価格は暴落し、債務残高は過去20年間で最多。財政赤字は欧州連合(EU)が定める上限を超えるほど膨れ上がっている。

 今年4月には、ルッテが進めようとした歳出削減策に、閣外協力してきた極右の自由党が反対。政府は一部野党の合意を取り付けてなんとか緊縮策をまとめたが、中道右派政権は崩壊し、早期の総選挙実施の引き金となった。以来、緊縮財政をめぐる世論は真っ二つに割れている。

「選挙に勝てば、ルッテは医療費をさらに70億ユーロ削減し、社会保障費を90億ユーロ減らすだろう」と、反緊縮路線の社会党党首エミール・ルーマーは党のサイトで書いている。「危機をさらに悪化させ、社会を壊すだけだ」 

 かつて弱小政党だった社会党は富裕層への増税と防衛費の削減、EUへの拠出金削減による財政健全化などを公約に掲げ、自由民主党に代わる第1党の座をねらっている。だが、テレビ討論会でのルーマーの冴えないパフォーマンスのせいで、社会党はここへきて一気に失速気味だ。

選挙が終わっても連立が組めない?

 一方、予測できない動きを握りそうなのが、2010年の総選挙で第3位の議席数を獲得した極右・自由党のヘルト・ウィルダース党首だ。過激な反イスラム発言とボリュームたっぷりの金髪がトレードマークのウィルダースは、ユーロ危機への国民の不満に乗じてユーロを見限り、EUを脱退しようと呼びかけている。

 世論調査によれば、前回の総選挙ほどの支持はないものの、ウィルダースの支持層が世論調査で本音を隠す傾向にあることを考慮すれば、意外な健闘をみせる可能性はある。ただし、他党が自由党との連携を拒んでいるため、連立政権に参画する可能性は低い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中