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民主化ビルマのビジネスチャンス

民主化路線で国際社会から熱視線。ビルマの次の狙いは金融・為替改革だが「未開の大国」は世界の工場になれるのか

2012年2月29日(水)15時21分
トレファー・モス(ジャーナリスト)

魅惑の地 高騰する首都ラングーンの不動産への関心は高い Soe Zeya Tun-Reuters

 ビルマ(ミャンマー)で進行中の改革のうち、最も大きな意味を持つのはどれか──なかなか答えが出せない難問だ。

 10年に民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーの軟禁措置を解いたことや、4月に行われる予定の連邦議会補欠選挙に、スー・チー率いる国民民主連盟(NLD)が参加するのを認めたことは、もちろん重大な決断だ。おかげで、ビルマは国際社会への復帰を目指していると印象付けることができた。

 大規模な恩赦を実施し、キン・ニュン元首相などの大物を含む多くの政治犯を解放したのも大きな転機になった。少数民族カレン族の反政府武装組織カレン民族同盟(KNU)との停戦合意も(合意が守られれば)極めて画期的な出来事だ。

 だが最も根本的な変化をもたらすのは、1月26日に新会期が始まった連邦議会かもしれない。議題である一連の法改正が認められれば、外資への市場開放が始まる。これこそ、おそらく何にも増してビルマを変える可能性を秘めた変革だ。

 ビルマが外国企業の現実的な進出先候補になる上で、鍵を握る法案は2つ。1つは外国投資法の改正案だ。ビルマ南東部のダウェイで建設が進む経済特区に適用され、ビルマ全域における改革のひな型になるとみられている。

「待ち望まれている大きな変化だ」と、ビルマ経済に詳しいマッコーリー大学(オーストラリア)のショーン・ターネル准教授は言う。「新しい外国投資法は、外国人による土地購入や金融機関への投資を許すかどうかを示す指針になる」

 とはいえターネルが指摘するように、昨年提出された外国投資法改正案には反対の声が強く、今会期で可決するかは予断を許さない。それも当然だろう。外資の参入を金儲けのチャンスと捉える議員がいる一方で、外国企業を既得権を脅かす存在と見なす議員もいるからだ。

 鍵となるもう1つの法案は、外国為替法だ。IMF(国際通貨基金)や世界銀行、アジア開発銀行の代表団がビルマを訪問し、金融部門の改革について助言しているが、その目的は公定レートと実勢レートが二重化している為替制度の統一に力を貸すこと。外国人投資家の視点からいえば、金融改革は適正な市場レートで電信送金できる環境をもたらし、ビルマで合法的に事業が行えるようになる。

 もっとも、こうした改革だけでビルマに投資がなだれ込む未来は実現しない。しかも現状は、太文字の「注意書き」を付け加える必要がある。

 第1に、ビルマの政治改革は始まったばかりの段階で、後戻りする懸念が拭えない。いまだに釈放されていない政治犯も多く、少数民族カチン族との停戦も実現していない。

 スー・チーやNLDが、軍事政権時代の幹部が議員として居座るビルマ政界の主流と合流できるのか見守る必要もある。これまでの改革を受けてEUやアメリカは近い将来にビルマへの経済制裁を解除する見通しだが、テイン・セイン大統領率いる現政権の民主化路線が「本物」のお墨付きを得るには、今後も厳しい試験にさらされなければならない。

 第2に疲弊し切ったビルマ経済が再び国際市場システムの一部になれるかどうか、疑問の余地がある。ジャーナリストで米外交評議会(東南アジア担当)のジョシュア・カーランジック研究員が言うように、インフラ整備のレベルや教育水準が低い国家は、外国企業にとって不安が付きまとう。

 経済の特定の部門には、こうした指摘が特に当てはまる。例えば、ビルマでタブレット型端末iPadが生産される日は遠いだろう。ビルマの労働者は技術が未熟だし、テクノロジーやインフラが標準レベルを下回るビルマの工場を、国際的な供給網に組み込むのは難しい。この手の製品の生産を任せるなら、ビルマより頼りになる国がほかにある。ビルマが「世界の工場」の座を狙える国になるまでには、長い時間がかかるはずだ。

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