福島原発は廃炉にできない
物理的な障害も少なくない。炉のふたに据え付けられている開閉用のクレーンは既に吹き飛び、金属製のふたそのものも熱で変形していると考えられている。ふたを開けるためだけに、専用クレーンを一から開発しなければならない。
「福島は廃炉にできない」と、後藤は言う。英科学誌ネイチャーは先週、専門家の見解に基づく記事で、数十年から場合によっては100年かかるとの見方を示した。損傷した燃料を含めて原子炉内の放射性物質の除去に長い時間がかかることなどがその理由だ。記事は、放射能汚染の除去作業が2065年まで続くチェルノブイリと似た状況になるだろうと指摘している。
福島第一原発の危機は、まだ現在進行形である可能性もある。メルトスルーしたウラン溶融体が、地下深くに潜っていって地下水を汚染する危険性を京大の小出は警告し続けている。逆に炉心のすべてが崩壊していない場合は、これからさらにメルトダウンが発生して水蒸気爆発が起きる可能性もまだ否定し切れないという。
いずれの場合でも、今とは桁違いの放射能汚染が広がることになる。廃炉もますます遠のくだろう。
事故の終わりは当面期待できず、待っているのは巨大廃棄物との果てしない戦いだけかもしれない。汚染された原発周辺の土壌を完全に元に戻す技術も、人類は持ち合わせていない。どれだけ巨大なふたで覆ったとしても、「悲劇のモニュメント」は今後数代にわたって日本人を脅かし続ける。
[2011年7月27日号掲載]