チェチェン独裁者がマラドーナと勝負
世界的スーパースターを集めたエキシビションマッチを開催して「サッカー政治」を繰り広げるチェチェンの思惑
茶番劇? マラドーナ(右)率いる国際選抜チームを相手にカディロフ(左)はハットトリックを決めたが Eduard Korniyenko-Reuters
チェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長は、欲しいものをすべて手に入れる男だ。彼の強権支配を批判する者は次々に殺害され、今ではチェチェンの至るところにカディロフのポスターが貼られている。
昨年12月に、2018年サッカー・ワールドカップの開催地がロシアに決まると、カディロフの「欲しいものリスト」に新たな項目が加わった。それはチェチェンを世界一のサッカー王国にすること(もちろん「国王」はカディロフ自身だ)。この夢を実現するため、カディロフは世界的なスター選手を次々とチェチェンへ招聘し、昔から黒い噂が絶えない国際サッカー界を、さらなる「高み」(あるいは「深み」)に到達させた。
まず今年1月、元オランダ代表で名門クラブでの監督経験もあるルート・フリットを、チェチェンの首都グロズヌイを本拠地とするロシア・プレミアリーグのFCテレク・グロズヌイの監督に招き入れた。
ロマーリオもフィーゴもチェチェン入り
その2カ月後には、ロマーリオやカフーを含むブラジルのワールドカップ出場経験選手を集めたオールスターチーム(やや年はとっているが)を招き、自身がキャプテンを務めるチェチェン・ロシア混合チームとのエキシビションマッチを企画。これに6対4で敗れると、今度は5月11日に「第2弾」を実現させた。
今回招聘された「国際選抜チーム」には、アルゼンチンのディエゴ・マラドーナや元フランス代表ゴールキーパーのファビアン・バルテズ、ポルトガルのMF、ルイス・フィーゴなど世界的なスターが顔をそろえた。
迎え撃つのは、マラドーナと同じ背番号10をつけたカディロフが率いる「カフカス代表チーム」。キャプテンは北カフカス連邦管区大統領全権代表のアレクサンドル・フロポーニンだ(選手たちがピッチ上でウォーミングアップをしている最中に登場し、キーパーのいないゴールにシュートしたが失敗した)。他にも、カディロフの政敵を暗殺した容疑をかけられているアダム・デリムハノフを始め、チェチェン政府の官僚たちがピッチに立ち、世界代表に戦いを挑んだ。
午後11時45分、ゲーム開始のホイッスルが鳴ると、スタジアムには「ラムザン! ラムザン!(カディロフの名前)」という声援が響き渡った。観客の多くは、新スタジアムのこけら落としを祝うショーを見るために、夕方から会場に集まっていた。伝統的なダンスや花火が何時間も続くうちに、3万人の観客は半数近くに減っていたが、それでもカディロフがボールをもつと、大歓声が沸き起こった(ずんぐりした体型と大きなお腹のせいで、34歳とは思えないほど動きが鈍いが)。
一方、国際選抜チームはカディロフに近づかないよう指示されているかのような、ふがいない戦いぶり。前半は、この試合が「スポンサー」であるカディロフの凄さを示す場だということを忘れていたのか、チリのストライカー、イバン・サモラノとマラドーナが2ゴールを決めた。
しかし、ハーフタイムの間に何らかの説得があったのだろう。「これは歴史に残るゲームになるでしょう!」というアナウンサーの叫び声に続いて始まった後半では、カディロフが攻撃的なスタイルでマラドーナを2度倒しても、ファウルはとられず。結局、5対2でカフカス選抜チームが勝利した。