泥酔の旅はイタリアへ
格安のパブ巡りツアーで欧米からやってくる若い団体客が歌う、わめく、路上で吐くなどの醜態で永遠の都は様変わり
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外国人だけではない ローマ市内の広場で堂々と酒を飲むイタリアのティーンエージャーたち(04年)Marco Di Lauro/Getty Images
ローマの観光名所コロッセオ(円形闘技場)に程近い、居心地のいいアイルランド風パブ「コークスイン」は、2年前から「パブ巡りツアー客お断り」の姿勢を打ち出している。「若い観光客がなだれ込み、10分で飲めるだけ飲むと次の店に向かう。わめくわ歌うわ、路上で吐くわ。売り上げのためだけに目をつぶるのは、私のモラルに反する」と、経営者は話す。
おいしい料理とロマンチックなナイトライフの代名詞だったローマも、今や酒飲みの観光地に成り果ててしまった。イギリスやアイルランド流のパブ巡りツアーの波が、永遠の都の広場や街中にも押し寄せてきたのだ。ドイツ人やアメリカ人、スウェーデン人、イギリス人など最大で150人もの団体(16歳未満の未成年者も多い)が、イタリア人ガイドに案内されて夜の街をうろつく。
1人20ユーロ(約2140円)のツアー料金で、彼らは安くておしゃれなバーを巡る。ツアーを主催するのはほとんどがローマ在住の外国人で(主にロシアと東ヨーロッパの出身者)、彼らに雇われた地元の若者が観光名所で旅行者を勧誘する。
「最高に楽しい」と、ノルウェーから来た19歳のリンダは言う。「お酒はどこよりも安いし、さらに観光までできるんだから」
だが、お祭り騒ぎがいつも楽しく終わるとは限らない。昨夏、20歳のオーストラリア人がテキーラで深酔いした揚げ句、橋でふざけてテベレ川に転落し、死亡した。
ローマはここ数年で様変わりした。夜になると、一部の史跡はビール瓶やガラスの破片、使い捨てのコップが転がる野外トイレと化す。若者はローマ橋やルネサンス期の遺跡に群がって酒を飲み、大麻を吸い、夜更けまでたむろする。
1600年に哲学者のジョルダーノ・ブルーノが火あぶりの刑に処せられたカンポ・デ・フィオーリ広場は、2つの顔を持つ。昼間は青空市が開かれ、果物や焼きたてパンの香りが漂う。夜になると、ブルーノ像の周辺ではビールと吐瀉物の臭いが鼻を突く。
「以前のローマはこんなふうじゃなかった」と、56歳のローサ・ディジャンニはこぼす。「今じゃ明け方4時に、酔っぱらった若者のわめき声で目が覚める」
広場を飲酒禁止区域に
イタリアの若者の間でも飲酒問題は深刻化している。保健当局の最近の報告によると、11〜24歳の青少年150万人が頻繁に過度の飲酒をしているという。
イタリアでは、16歳未満のパブでの飲酒は法律で禁止されている(小売店では購入できる)。加えて、多くの都市がより厳しい独自の規制を導入。ローマ市長ジャンニ・アレマノは、特定の広場を飲酒禁止区域にし、夜間の市民パトロールを実施すると決めた。市当局者は「懲罰目的ではなく、治安悪化を防ぐのが狙いだ」と話す。
だが、警察の目も市内全域には届かない。「違法と知りつつ子供にアルコール類を出す店もある」と、18歳のジャコモは証言する。
一方で、酔った若者を家に送り届ける「安全ドライバー」が常駐する良心的な店もある。
ミラノは他の都市に先駆けて条例を導入。16歳未満にアルコール類を販売した場合、店にも客にも450ユーロの罰金が科される。条例制定のきっかけは、ミラノの中心地ベトラ広場で昨夏、ウオツカをがぶ飲みしている14歳の少女が補導されたことだ。少女はふらついて倒れ、手にしていたウオツカの瓶を割ったが、それでも飲み続けようとしてガラスで唇を切った。
「たった1人でも若者の命を救えるなら、条例導入の意義がある」と、同市のレティツィア・モラッティ市長は言う。