「元親米」グルジアがイランに急接近
米露蜜月の陰でアメリカに見捨てられ、生き残りを模索する孤独な小国
過去の人? 2年前のグルジア紛争では欧米諸国の熱烈な支持を受けたサーカシビリ大統領だが今は……(6月25日) David Mdzinarishvili-Reuters
グルジアのミハイル・サーカシビリ大統領は、かつて味わったことのない孤独に打ちひしがれている。
グルジアは2008年夏、南オセチア自治州とアブハジア自治共和国を取り戻すために同地域に攻め入り、旧宗主国のロシアと激しい戦闘を繰り広げた。
アメリカをはじめとする西側諸国は、グルジアを支援。ロシアが南オセチアとアブハジアを占領すると、チェイニー米副大統領(当時)はグルジアの首都トビリシに飛んで、ロシアの「侵攻」を非難し、欧米で教育を受けたサーカシビリ大統領への支持を表明した。大統領選候補だったジョン・マケインも即座に、両自治区におけるグルジアの主権を認める声明を出し、バラク・オバマもそれに続いた。
だが今や、そんな蜜月時代は過去のものだ。旧ソ連地域における親欧米政権を支援し、グルジアとウクライナをNATO(北大西洋条約機構)に加盟させようとしたブッシュ政権時代の情熱は消え失せ、オバマ政権は「ロシアとの健全な関係」を優先させている。核軍縮やイランへの制裁、さらにはミサイル防衛についても、米ロは認識を共有。先週行われたロシアのメドベージェフ大統領とオバマの友好的な会談によって、両国関係はこの10年で最高潮に達した。
フランスはロシアに軍艦を売却
もっとも、そのためにオバマは、グルジアとの関係を見直さざるをえなかった。ホワイトハウスの報道官は5月、核軍縮条約の米議会での批准に関して、ロシアによる南オセチアとアブハジアの占領は「もはや障害とは考えられていない」と語った。グルジアを支援するために設立されたNATOグルジア委員会も、ロシアを刺激しかねないグルジアのNATO加盟について具体的な計画を定めていない。NATOがグルジアの加盟を急いでいない証だ。
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相も、アメリカとグルジアが経済・技術・政治面で協力を進めるために昨年締結した戦略的パートナー協定は「アメリカ外交の過去の遺物」だと議会で語った。しかもフランスは、ロシア海軍がアブハジアの防衛に使う軍艦をロシアに売却する話を進めている。
孤立感を深めたグルジア政府が、支援を求めて近隣諸国にアプローチするのは当然だろう。
サーカシビリ大統領は5月、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン首相を首都トビリシを招待。両国の間では、トビリシからトルコ北東部の都市カルスまで鉄道を敷設してグルジアとヨーロッパを結ぶ計画が進んでいるが、そうした経済協力以外にもさまざまな課題が議論された。トルコはすでにグルジア最大の貿易相手国で、両国は年内にもビザなしの渡航を認め合う予定だ。
それ以上に驚きなのは、グルジアがイランに接近していることだろう。このところ両国の外交関係者が頻繁に行き来しており、今月にはイランのマヌーチェフル・モッタキ外相がトビリシを訪問。さらに、グルジアのニカ・ギラウリ首相もイランを公式訪問する予定だ。
どれも、国連によるイランへの制裁体制に違反するものではない。近隣国グルジアとの友好ムードに勢いづくイランは、マフムード・アハマディネジャド大統領によるグルジア訪問を提案しているが、アメリカの機嫌を損ねたくないグルジアは今のところ返答を先延ばしにしている。