最新記事

外交

菅首相は日米同盟をリセットできない

締結50年の日米安保条約にはアップデートが必要だが、日米両政府とも普天間以外の問題について「修繕」準備をしているようには見えない

2010年6月18日(金)17時16分
ジョシュ・ロギン

慎重な船出 衆議院本会議での所信表明演説に向かう菅直人新首相(6月11日) Issei Kato-Reuters

 鳩山由紀夫首相が辞任し、日米関係に「リセット」のチャンスが訪れている。日米関係の冷え込みは鳩山とバラク・オバマ米大統領の個人的な不和と、延々と続いた沖縄の海兵隊普天間飛行場をめぐる議論が原因だった。だが両国は果たしてこのチャンスを生かすことができるだろうか。

 新首相に就任した菅直人が06年の日米合意を守る意思を示しているので、普天間をめぐるいざこざは棚上げされているように見える。今年で締結から50年の日米安全保障条約にはアップデートが必要。だが日米両政府とも、普天間基地以外の問題について修繕準備をしているとは思えない。

 これまでのところ菅の発言は正しい。「新首相は日米同盟の重要性を強調するために可能なことは全てやった」と、日米関係に詳しい米政権筋は言う。「非常に複雑な課題もあるが、これまでの菅首相の発言を聞いて安心している」

 菅は就任会見で、日米同盟は日本の外交の基軸であり、06年の日米合意を守ると誓った。だが菅は所信表明演説では、中国との関係強化について重視しているとも語った。

 多くの米政府関係者はこの言葉が、昨年初めて政権に就いた民主党の「リスクヘッジ」だと見ている。オバマ政権が日本に対してふさわしい尊敬と注目を払っていないと、日本政府が今も感じている表れだというのだ。

 元国務副次官補東アジア担当のランドール・シュライバーは、最近の日米関係の冷え込みについて「まだ続いていると思うが、首相交代はリセットのチャンスだ」と言う。鳩山政権の問題は鳩山個人の問題だった。彼の政治スタイルや、自分で設定した期限を守れなかったことが信頼を失う結果を招いたと、シュライバーは言う。

落ち着くところは「現状維持」

 では菅首相に代わった今、問題は何もなくなったのだろうか。

 そうではない。中国に関する菅の発言は、安全保障や経済、外交のより幅広い問題について日米政府の意見が必ずしも一致してないことを示している。

「日米の問題は普天間だけではない。だが普天間に関する議論しかしてこなかった」と、シュライバーは言う。「誰かが議論を次の段階に進め、より幅広い地域問題について話し合いを始める必要がある。そしてそれは我々でなければならない」

 菅が同盟関係の見直しをリードする可能性は低い。経済と議会における民主党の地位の維持に集中しなければならないだからだ。

「菅首相は鳩山の後を受けて非常に用心深くなっている」と、新米安全保障研究センター(CNAS)でアジア安全保障担当部長を務めるパトリック・クローニンは言う。「7月の参院選でも党を率いなければならない。結果次第で次の連立政権の枠組みや次の内閣が決まる。基地問題の行方も決まる可能性がある」

 ワシントンの日本専門家の一部は、日本の民主党はいまだに米政府からあまり尊重されていないと嘆く。今週開かれたCNAS主催の会議では同盟関係の見直しが議題になったが、新しい考えがきちんと議論される機会などあるのだろうか。

 CNASの会議には沖縄県民は誰も招かれず、民主党議員の演説者は長島昭久ただ1人。彼は間違いなく有力な政治家だが、米政府の「同盟管理人たち」との昔からのつながりで知られるタカ派でもある。

「今回の会議でも『現状維持』を求める意見が大勢を占めるのは明らかだ」と、ニューアメリカ財団上級フェローのスティーブン・クレモンズは語った。

Reprinted with permission from the Cable, 18/06/2010.© 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中