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キルギス動乱で米軍基地どうなる

アフガニスタンへの物資供給の重要拠点であるキルギスで、米軍の基地使用に批判的な勢力が政権を樹立

2010年4月8日(木)17時39分
ジョシュ・ローギン

革命の再来 3月7日に発生した反政府デモは、5年前の民主革命で権力の座に着いたバキエフ大統領を追い落とした Vladimir Pirogov-Reuters

 4月7日、中央アジアのキルギスで反政府デモ隊と治安部隊が衝突し、野党勢力が政権を掌握した。新たに樹立された臨時政府が今後も権力を維持することになれば、米国防総省と国務省はキルギスでの空軍基地使用に関して、新政権と再交渉する必要に迫られるかもしれない。

 キルギスの都市マナスの空軍輸送センターはアメリカにとって、アフガニスタン駐留米軍に物資を供給する重要な中継拠点。わずか数カ月前には、バキエフが基地使用料を値上げする協定にサインしたばかりだ。

 中央アジアでのアメリカの軍事プレゼンスの増大を嫌うロシアにけしかけられて、キルギスの国会は昨年2月、米軍への基地供与の中止を決めた。この動きを主導したのが、元議会議長で野党指導者のオムルベク・テケバエフ。先日、当局に一時身柄を拘束されたが、7日に解放され、臨時政府を率いている模様だ。

「マナスの基地使用について再交渉が必要になるだろう。そもそも(基地使用料について)交渉するようバキエフに圧力をかけたのは野党勢力だったのだから」と、大西洋協議会ユーラシアセンターの上級研究員アレクサンドロス・ピーターセンは言う。「野党勢力の中心人物たちはキルギス随一の反米というわけではないし、随一の親ロシアというわけでもない。ただ、彼らは基地使用料値上げ運動の先頭に立っていたから、政治的理由で交渉を再開せざるをえない」

ウクライナやグルジアに飛び火?

 中央アジアで交渉を行うときに必ず問題になるのが、アメリカとロシアの力関係だ。「今回は比較的、友好的な交渉になるかもしれないが、ロシアが再び干渉してくる可能性は十分ある」と、ピーターセンは言う。

 ロシア側にしてみれば、アメリカとの取引に応じたバキエフに仕返しをしたい気持ちがあっただろう。だが、ウラジーミル・プーチン首相はキルギスでの反政府勢力による暴力行為を非難し、一連の混乱へのロシアの関与を否定している。

 一方、米軍の広報担当者によれば、基地の状況は「通常通り」だという。「今のところ基地は正常に機能しており、混乱の影響はない」と、国防総省の広報担当者ショーン・ターナーは言う。「多少緊張感が高まってはいるが」

 首都ビシケクでは、バキエフ大統領(2005年のチューリップ革命で当時のアスカル・アカエフ大統領を辞任に追い込み、大統領に就任)が基地内に隠れているとのがさやかれているが、ターナーは何の情報もないと否定している。「基地関係者から、特に変わりはないと聞いている。もしバキエフが基地内にいるのなら、自分たちにも知らされるはずだと言っていた」

 ピーターセンは、バキエフが自身の出身地で勢力基盤である南部オシュに逃れたと聞いたという。さらに彼は、バキエフが国内にとどまっているのなら、権力闘争はまだ終わっていないと付け加えた。

 キルギスの動乱は、国際社会にとっても大きな意味をもつ。不人気な政権を打倒するカラー革命(旧ソ連諸国で相次いだ一連の民衆革命)の波が今も続いており、理想を実現できなければ、民主的な政権でさえ簡単に転覆させられることに、国際社会はあらためて気づかされた。

 キルギスの反政府デモの直接の引き金は、政府が公共料金の200%の値上げを決めたことだったが、バキエフがしばらく前から縁故主義と汚職に手を染めていたことも一因だろうと、ピーターセンは指摘している。

 さらに「この地域ではカラー革命はまだ死んでいない」として、キルギス情勢がウクライナやグルジアにも影響を与えるだろうと語った。「カラー革命によって独裁主義が生まれたら、さらなる革命が起きる可能性はある」

[米国東部時間2010年04月07日(水)15時53分更新]

Reprinted with permission from "The Cable", 08/04/2010. ©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.


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