イラク選挙を乗っ取るイランの「スパイ」
マグワイアからすれば目新しいことは何もない。デービッド・コーンと私が共著『傲慢――イラク戦争の情報操作とスキャンダル、売り込みをめぐる内幕』で指摘したように、マグワイアやCIA工作員だったロバート・ベアーは90年代に、ある事実をつかんでいた。チャラビの側近だったアラス・ハビブがイラン情報省(MOIS)から「任務」を指示され、イラク北部にあるCIAの秘密基地を使ってイラン側と接触していたという。
イランの偽情報でイラク開戦?
ハビブは後に、米政府が資金援助した「情報収集プログラム」で責任者を務めた。サダム・フセインが大量破壊兵器を開発しているとの情報を広めたのはこの組織だ。とするとイラク開戦前、チャラビ率いるイラク国民会議(INC)から米メディアに流れた大量破壊兵器保有に関する情報は、イラン情報当局からもたらされたガセネタが出所という可能性もある。
マグワイアによると、ブッシュ政権下ではチャラビとイランの関係を懸念する声は無視されていた。ところが04年5月、アメリカの情報収集手法についてチャラビがイラン工作員に情報を流したことが判明。イラク駐留米軍とイラク警察がチャラビの自宅と事務所を捜索した(チャラビの報道官ブルックは前述の本誌宛メールで、「チャラビがアメリカの情報活動について他国にリークしたことを示す証拠は一つもない」としている)。
ブッシュ政権時代には、チャラビに不利な証拠の大半は表に出てこなかった。しかし現在、オディエルノとバラク・オバマ政権はチャラビとイラン側の密会に関する機密情報を明らかにしつつある。
首相になるというチャラビの狙いが成功すれば、イラク政府はイランの「操り人形」になるかもしれないと、マグワイアは警告する。そうなればイラクのスンニ派はこれに対抗し、米軍侵攻以来の大規模な攻撃を仕掛けることだろう。
情勢が混迷すれば、今年8月末までにイラク駐留米軍の戦闘部隊を撤退させるというオバマの計画はつまずく可能性がある。2011年までに米軍撤退を完了させる計画が難しくなるのは言うまでもない。