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北朝鮮北のデノミは暴動の導火線
庶民と役人のささやかな蓄財もパアにする通貨政策は、王朝崩壊や核拡散の引き金を引きかねない
我慢も限界? 人々が旧紙幣で貯めこんでいた「たんす預金」が紙切れ同然に Jo Yong hak-Reuters
私の職場の上司であり、米政府の北朝鮮政策を統括するスティーブン・ボズワース特別代表が12月8日、平壌入りした。いい機会なので、北朝鮮政府が国民に慕われようとはしていないことをここで指摘しておきたい。
そんなことは知っている? では、別の言い方をしよう。北朝鮮政府は最近、これまで以上に国民を無視した振る舞いをしている。
問題は、11月30日に実施した通貨ウォンのデノミネーション(通貨単位の切り下げ)による新通貨の導入だ。国民は旧紙幣を新紙幣に交換しなくてはならないうえに、一人当たりの交換金額に制限がある。
目的は2つある。一つは、ウォンのゼロをいくつか切り下げること。もう一つは、中国との国境沿いで旧紙幣を貯めこんでいる貿易業者を一掃することだ。
AFP通信は、北朝鮮政府がついに国民を怒らせる方法を見つけたようだと報じている。
いらだった市民が旧紙幣を燃やしているとの報道がされるなか、韓国の人道支援団体「グッドフレンズ」によれば、当局はそうした行為を厳しく罰すると脅しているという。
多くの市民はカネの出所を詮索されるのを避けるため、価値のなくなった旧紙幣を当局に差し出すより燃やすことを選ぶだろうと、「グッドフレンズ」関係者は言う。紙幣には建国の父である金日成国家主席と息子で後継者の金正日の肖像が描かれており、その顔を傷つける行為は重罪に当たる。
役人が新たな「負け組」に
生まれたばかりの民間の食料品市場がデノミによって次々に潰れ、市民は基本的な食料品を入手するのも困難な状態だ。国連食糧農業機関(FAO)は、北朝鮮が再び食糧危機に陥ると予測している。
米国平和研究所のジョン・パークは、今回のデノミが政治経済に与える影響についてうまい解説をしている。
市場経済が活発な地域に住む北朝鮮国民が商取引拡大の恩恵を受けるのに伴い、当局の人間は役職の高低にかかわらず、その分け前に預かる方法を見つけていた。彼らは賄賂の大半(貿易業者にとっては「みかじめ料」)を着服し、一部を自身が所属する組織に回す。
今回のデノミによって市場から吸い上げる賄賂が減れば、彼らは資金不足に陥る。リッチな暮らしを享受してきた彼らが、一般国民と同じ不満をかかえる。デノミが生んだ新たな「負け組」は、過去に政府主導で経済改革や通貨改革が行われたときの抗議者たちよりも高度で組織だっているかもしれない。
北朝鮮政府が一貫性のない配給体制や全国規模の公的サービスの改善と再建という巨大事業に取り組んできていれば、デノミによって闇市場を締め上げ、国民を再び国家に依存させて管理体制を強化できたかもしれない。
だが政府はそうした努力をしてこなかったようだ。政府はデノミよって秩序の回復をねらっているようだが、国民だけでなく多くの政府関係者にも広く利用されてきたシステムを壊すことで、経済的、社会的、政治的な不安定化のスイッチを押してしまったのかもしれない。
体制不安で核拡散のリスク
北朝鮮の体制が揺らぐのはいいことでは? いや、核問題を考えればそうでもない。
北朝鮮の国内不安は、ボスワースにとっても、6カ国協議にとっても、核不拡散の努力全般にとってもマイナスだ。イラン政府は6月の大統領選をめぐる動乱の後、保守派の基盤を強化し、政権への支持を回復させるために核問題への態度を硬化させた。
北朝鮮で同じロジックが働かない理由はない。実際、北朝鮮が今年取ってきた好戦的な態度も、国内不安のせいだと考えると辻褄が合う。
この話題はまだ続きそうだが、非常に嫌な予感がする。
Reprinted with permission from Daniel W. Drezner's blog, 10/12/2009.©2009 by Washingtonpost. Newsweek Interactive, LLC.