中国の女はもう我慢しない
根深い性差別に女性たちが沈黙を破って立ち上がろうとしている
成長のひずみ 未熟な労働市場で女性は「商品」として扱われる Jason Lee-Reuters
かつては愛人と纏足が代名詞だった中国はこの数十年、あらゆる性差別を禁止してきたと自負している。だが今春、その自信を揺るがす不釣り合いなニュースが続いた。
南西部の貴州省で5人の役人が、未成年の少女たちに売春を強要した罪で懲役を科された。当初は「未成年の売春婦と性交渉をした」容疑とされていたことが、世論のさらなる怒りをあおった。
雲南省昆明の南の都市では女子生徒2人が、病院の検査で処女だと判明したにもかかわらず売春の罪で起訴された。
湖北省では5月に、ウエートレスの鴆玉嬌(トン・ユイチアオ、21)が自分をレイプしようとした役人を刺殺したとして逮捕された。彼女が殺人罪で起訴されることになると、全国のメディアとインターネット上で抗議が沸騰。当局が罪状を変更するという珍しい事態になった。鴆は自己防衛のために過度の暴力を働いたとして有罪判決を受け、限定責任能力が認められ釈放された。
これらの事件は中国における女性の地位をあらわにし、市民の心に強く訴えた。女性が「空の半分を支えている」と毛沢東が言って以来、政府は表向きは男女平等を促進してきたが、理念の実践は一貫していない。
確かに共産党政権の初期には、女性の生活は格段に向上した。離婚する権利が認められ、男性と対等な立場で働けるようになり、教育の機会は大半の途上国に比べてかなり充実した。
しかし80年代に中国の力強い経済成長が始まってからは、女性の地位の逆行ぶりは深刻だ。裕福なエリート層を中心に多くの中国人女性は、良い教育を受け、多国籍企業で働き、自分の家を持つなど、かつての中国では考えられなかった生活を送っている。
だがそれ以外の女性は、特に貧しい女性の生活はそれほど変わっていない。しかも共産党が撲滅しようとしてきた古い慣習や搾取の多くが復活している。
最も明白な例は性産業の急成長だろう。政府は50年代に売春業を廃止。売春婦の社会復帰を促してきた。しかし今日では、マッサージ店や理髪店などカネでセックスができる場所は至る所にある。国内の売春婦は400万人に上るという推計もある。
企業も政界も男性優位
性産業の拡大は、中国の市場経済が新しい機会を創出してきた一方で、女性の搾取に貢献してきたことを物語る。80年代以降、地方の女性は都会に出て仕事を探せるようになった。しかしこれは都会に大きな下層階級を生み、体を売るしか稼ぐ術がないという人も少なくない。最近の世界的な経済危機で、そうした窮地に追い込まれる人はさらに増えるだろう。
問題は売春をはるかに超えている。中国の女性問題に詳しい米タフツ大学の社会学者孫中欣(スン・チョンシン)によると、規制が貧弱な中国の労働市場で、資本主義は「女性を商品として扱う」風潮をつくってきた。「例えば『求む女性。容姿端麗、身長160センチ以上』という求人広告が最近は多い。美人でなければ雇ってもらえないかもしれない」
職場の性差別の報告も日常茶飯事だ。かつては国営の企業や職場に無料の託児施設があったが、最近は出産年齢の女性の雇用を拒む傾向が広まっている。「出産のために、大卒の女性は大卒の男性より仕事を見つけるのが難しい。個人の資質もあるが、競争力の弱い女性のほうが障害は多いだろう」と、女性史に詳しい華東師範大学の姜進(チアン・チン)教授は言う。
姜によると、無数にある小さな民間企業はとりわけ厳しい。役所と国営の大企業は社会主義時代の平等主義がより強く残っている。しかし小さな企業は、上司が「男女平等について十分に学んでいない」ことが多いと、姜は言う。