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ブラジル強気のルラがねらう世界新秩序
先進国支配に抵抗し、イランのような圧政国家に擦り寄る新外交は実を結ぶのか
大統領選における不正疑惑の渦中にあるイランのアハマディネジャド大統領と、彼を支持する宗教指導者たち。そんな彼らを民主国家ブラジルが公然と支持しているのだから驚きだ。
先頃訪欧したブラジルのルラ大統領はイラン大統領選の不正疑惑を否定し、抗議デモをサッカーファン同士の争いになぞらえた。国連人権理事会の会合に出席した後に彼は「選挙結果に異議を唱えているのは野党だけだ」と言い、アハマディネジャドをブラジルに招く意向をあらためて表明した。
これまで外交面では慎重姿勢を貫き、舞台裏での交渉を重んじてきたブラジルだが、最近はそうでもない。先進国には挑戦的な姿勢で臨み、途上国の戦略的パートナーには迎合するというのが新たな外交姿勢だ。
その背景にあるのは、経済力を付けたブラジルの国際的な威信の高まり。ルラはこの威信をてこに世界新秩序を構築する立役者となろうとしている。「G8はもう終わりだ」と、同国のアモリン外相も言う。「新たな主役は私たちだ」
その一環としてブラジルは、これまで先進国が独占してきたIMF(国際通貨基金)や国連安全保障理事会、世界銀行の主要ポストを自分たちによこすよう要求。その一方で従来の強国にけんかを売って自らの実力を見せつけようとしているらしい。
例えばアメリカ主導の米州自由貿易圏構想に反対しながら、自由貿易政策を独自に追求。OECD(経済協力開発機構)加盟でいわゆる「先進国」の仲間入りするという目標も捨ててしまった。
もっともこれは避けられない事態だったのかもしれない。ルラは多国籍企業やIMFへの痛烈な批判を武器に政治家としてのキャリアをスタートした。金融危機を引き起こしたのは「青い目の金融機関トップだ」と語るなど、その左派的な姿勢は今も垣間見ることができる。
とはいえ、反米を掲げる独裁者に迎合するのにはリスクもある。ブラジルはこれまで、北朝鮮やスーダンにおける人権侵害への非難に二の足を踏んでいる。「ブラジルは認識不足だ。(国連人権)理事会での投票を通して、人権侵害を行っている国を支援している」と、ヒューマン・ライツ・ウオッチのジュリー・デリベロは批判する。だがアモリン外相に言わせれば、ブラジルは「建設的な対話」を通じて同盟国を動かそうとしているのだそうだ。
もっともそう言われたところで、イランで治安部隊に殴られている反大統領派のデモ隊は納得しないかもしれないが。
[2009年7月 8日号掲載]