大ヒット! 新アルバムは歌姫テイラー・スウィフトが眠れない真夜中に刻んだ、成長の軌跡
The Right Kind of Concept Album
恋人への感謝をつづるアルバムは幅を増した歌声も聞きどころだ REPUBLIC RECORDS/UNIVERSALーSLATE
<最新作『ミッドナイツ』は、自伝的で独りよがりとも言える従来のスタイルから脱皮を告げる、優れたコンセプト・アルバム。リリース時間も秀逸だった理由とは?>
「コンセプト・アルバム」の歴史は1967年、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』に始まるとされる(実際には、それよりずっと前にさかのぼるが)。
振り返れば、このジャンルの傑作の大半は、テーマや物語を忠実になぞるのではなく、核となるアイデアを気負わずに展開している。
その1つが、テイラー・スウィフトの最新作で10作目のオリジナルアルバム『ミッドナイツ』だ。
今年33歳になる大物シンガーソングライターが本作に収めたのは、自身が経験した13の眠れない夜をめぐる13曲。
ただし、いかにも真夜中らしいダークな要素はあまりない。むしろ、月明かりに照らされたような雰囲気が、寝付けないままに抱く自省や不安、後悔、感謝を歌う曲にふさわしいフィルターになっている。
だがスウィフトは、業界ネタを仕掛けられる場面で何もせずに満足するタイプではない。
本作の題名は、配信サービス全盛の現代に、アルバムがリリースされる時間(通常は金曜日の午前0時)への目配せでもある。10月21日金曜日になった瞬間に発表された『ミッドナイツ』自体、ファンを眠らせない原因になった。
さらに、スウィフトは同日の米東部標準時午前3時に「特別で支離滅裂なサプライズ」があると宣言。ミュージックビデオやインタビューだけでなく、最新アルバムの追加トラック7曲を公開した。
これは音楽評論家をネタにしたジョークとして、とりわけ冴えていた。夜型人間である私たち評論家の多くにとっては、午前3時が真夜中のようなもの。
『ミッドナイツ』のレビューを書いているはずの時間に、新たに7曲を一挙投下することで、本作が生み出そうとした身も心もくたびれて、おぼろげな状態に私たちを送り込むことに成功した。
そういうわけで、このアルバム評は眠気交じりで書かれたものとして読んでほしい。