ボトックスで女性は本当に美しくなれる? 承認20年で分かった副作用と美意識の変化
Frozen by Botox: Let It Go
ボトックス治療の先駆者と言われる眼科医ジーン・カラザーズは、ある通院患者が治療の後で、眉間に注射してくれなかったと不満そうにしたことを覚えている。「彼女に謝って、この部分にけいれんはないと思っていたと説明した。患者は『けいれんはないけれど、ここに注射してもらうと、きれいで安らかな表情になれるから』と答えた」
この「きれいで安らかな表情」が、30億ドル規模の一大産業の始まりだった。アラガンがボツリヌス毒素製剤の権利を取得し、「ボトックス」と名付けたのは91年。皮膚科医や形成外科医は当初から美容目的で用いていたが、02年にしわ治療薬として承認された当時も、潜在的消費者層の間では抵抗が大きかった。
ボツリヌス中毒や闇市場の話のせいで、多くの人が手を出そうとしなかったと、バーコウィッツは著書で指摘する。アラガンや医師、それに女優のバネッサ・ウィリアムズなど「大使」役を務める体験者は一致団結して安全性をアピール。おかげで、ボトックスは額のしわの解決策になっただけでなく、非外科的美容整形や台頭するメディカルスパ産業など新たな分野への扉を開いてきた。
若年層の使用は逆効果になりかねない
とはいえ形成外科医の間では今も、若年層の使用には消極的な声がある。ヴォーグなどのファッション誌でさえ、早すぎる時期から過剰使用すれば逆効果になりかねないと警告している。
医療措置の例に漏れず、ボトックスには短期的副作用の可能性がある。いい例が、こめかみが一時的にへこむ変形現象や眉の位置の下垂だ。
だがそれ以上に懸念されるのは、継続的で恒常的なボトックス注入(老化防止のために推奨される使用法だ)が、より持続的な筋萎縮につながりかねない点だ。それも当然だ。動かないように指令を出し続ければ、筋肉はいずれ動くことをやめてしまう。
その結果、皮膚が薄く、緩くなり、変色したりして血管がより目立つ可能性があると、30年以上前からボトックス注射を手掛ける皮膚科医のパトリシア・ウェクスラーは言う。
顔面がさまざまな表情を作るのは自然なことであり、動かない筋肉があれば、代わりにほかの部分の筋肉を使うことになる。それが日常的に続けば、鼻の付け根や目の下にしわができる。
ボトックスが効果を失うこともある。約1~3%の人は、ボツリヌス毒素への免疫を獲得する可能性があるという。