トランスジェンダー選手の女子競技への参加は、科学的検証とルールが必要
Women’s Races Are for Females
現役時代の筆者はドーピングとの不公平な競争を強いられた(1989年) SIMON BRUTYーALLSPORT/GETTY IMAGES
<科学的には男性思春期の経験が圧倒的に有利に働く。現行ルールでは男性ホルモン投与のドーピングをした旧東独の選手と戦うのと同じで、女性が公平にスポーツに参加できなくなっている>
1980年のモスクワ五輪。競泳決勝の会場は1万人の観客で埋め尽くされていた。その大部分は地元のロシア人で、出場選手の中で非共産主義国の代表は私1人だった。
ロシア人や東欧圏の選手たちが紹介されるたび、観客は大声援を送ったが、私の番が来ると会場は静まり返った。唯一、私の父だけが声を限りに叫んでいた。
私は当時17歳。ものすごいプレッシャーだった。78年に英連邦の大会で優勝してから、五輪出場とメダル獲得の期待が私の肩にのしかかっていた。
私の家族は大きな犠牲を払ってきた。イギリスのごく普通の労働者階級の家庭だったので、洗濯機も夏休みの旅行も、あらゆるものを我慢して私のためにお金を使った。
私も1日6時間、週に6日、学校の前も後も練習した。それでも金メダルのチャンスはないと分かっていた。
男性ホルモンの一種テストステロンを投与された東ドイツ(当時)の女子選手は、体格も声も男性のよう。「男性の思春期」を経験した彼女たちには、喉仏まであった。結局、モスクワ五輪の競泳女子では、こうした選手がメダルの90%を獲得した。
この問題は現在のスポーツ界で起きていること――トランスジェンダーの女性が女子のカテゴリーで競技に参加することの是非をめぐる議論と密接な関係がある。
2015年に国際オリンピック委員会(IOC)がトランスジェンダーに関する新ガイドラインを公表する以前は、性別適合手術を受け、女性として生きた期間が十分に長い選手以外は競技に参加できなかった。
女子競技は女性のもの
でも今は、男性思春期を経た選手を強引に女子競技のカテゴリーに押し込んでいる。私がこの問題を強く訴えるのは、次世代の女子選手に私と同じ経験をさせたくないからだ。不当な手段で優位に立つ相手と競争するという経験を。
私は約3年前、友人60人とIOCに手紙を送り、トランスジェンダー選手に関するルール変更の前に科学に基づく検証を求めた。科学的には男性思春期の優位性は圧倒的であり、現行ルールは世界中の女性にスポーツをするなと言っているようなものだと思う。