テニス女王ウィリアムズ姉妹の栄誉を、父が横取り? 映画『ドリームプラン』の功罪
Venus and Serena Sidelined
スミス演じるリチャードは娘たちをチャンピオンにしたいと願って…… ©2021 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
<女子テニス界に君臨したビーナスとセリーナの原点を描く作品なのに、作中では大成功の手柄は父親のリチャードがほぼ独り占め>
映画『ドリームプラン』に、この映画の性格を浮き彫りにしているシーンがある。テニスラケットを手に持った2人の女の子の間にリチャード・ウィリアムズ(ウィル・スミス)がしゃがんでいる。リチャードがお姉ちゃんに尋ねる。「ビーナス・ウィリアムズ、お前の一番の親友は誰だい?」
「パパだよ!」。ビーナスは満面の笑みを浮かべて、今にも笑い出しそうな声で言う。今度は、リチャードが妹に同じことを聞く。「セリーナ・ウィリアムズ、お前の一番の親友は誰だい?」
「一番の親友はビーナス!」とセリーナが言い、みんながどっと笑う。そして、セリーナが続ける。「パパはその次」
この子供らしい会話を通じて、姉妹のキャラクターがはっきり見えてくる。姉のビーナス(サナイヤ・シドニー)はおとなしく従順な性格。妹のセリーナ(デミ・シングルトン)は元気で癇か ん癪しゃく持ちだ。
こうした性格は、この2人の偉大なアスリートを見守ってきたファンにはおなじみだ。ウィリアムズ姉妹はこの四半世紀、テニスの4大大会やオリンピックなどの大舞台で優勝を重ね、メディアのインタビューもたびたび受けてきた。
『ドリームプラン』は、ウィリアムズ姉妹の原点を描く。しかし、この映画がタイトル(原題は『キング・リチャード』)に冠しているのは、父リチャードの名前だ。
『ドリームプラン』によれば、ビーナスとセリーナの輝かしい成功の立役者はリチャードだという。2人を世界チャンピオンにするための78ページの計画書を作成したのも、姉妹に厳しい練習を課したのも、ピート・サンプラスやジョン・マッケンローを指導したポール・コーエンにコーチを依頼したのも、家族のために身を粉にして働いたのも、リチャードだった、というわけだ。
リチャードへの批判は退けられる運命
この映画を見ていると、本当のスターが誰なのかを忘れそうになる。幼いビーナスとセリーナが自分の倍の年齢の選手を破ったり、巨額の契約を結んだりといった快挙を成し遂げたときも、カメラはリチャードに向けられている。
リチャードが娘たちに自分のことを「一番の親友」だと言わせたがる場面は、気持ちよいものではない。このやりとりは、映画を見る人たちにもリチャードを愛するよう要求するものだ。
この会話での姉妹の反応を通じて、リチャードが娘たちに過酷な練習を強いても問題はないのだと、見る者に納得させる意味も込められているのだろう。
この映画でも、リチャードのやり方への批判があり得ることは認めている。けれども、映画の構成上、そのような批判は退けられる運命にある。
ある場面では、近所の人がビーナスとセリーナの姉妹に対して「練習がハードすぎると、お父さんに言ったほうがいい」と話す。