時代を象徴する「アジア系アメリカ人」の親たちの物語
The Complicated Cost of the American Dream
ピンルイ(左)は娘を厳しく育てるが、2人の間には距離が... SARAH SHATZ/NETFLIX
<台湾からの移民を描いた『タイガーテール』はハリウッドにおける時代の変化を感じる作品だ>
2016年、アラン・ヤンとアジズ・アンサリがネットフリックスの連続ドラマ『マスター・オブ・ゼロ』でエミー賞を受賞したのは、移民である親たちをテーマにした「ペアレンツ」と題された回が評価されたためだった。
ドラマの舞台であるアメリカには「1700万人のアジア系がいて、イタリア系も1700万人いる」と、受賞スピーチでヤンは述べた。「イタリア系(を描いた娯楽作品)には『ゴッドファーザー』があり『グッドフェローズ』があり『ロッキー』や世代と世代をつなぐ作品『ザ・ソプラノズ』がある。アジア系にあるのはロン・ダク・ドンだ。まだ先は長い」
ロン・ダク・ドンというのはジョン・ヒューズ監督の映画『すてきな片想い』(84年) の登場人物。中国人留学生を面白おかしくステレオタイプ的に描いたキャラクターで、おかしな英語を話し、人付き合いも恋愛も下手な負け犬だ。長い間、アジア系の男性はこの手の型にはまった差別的なイメージと戦ってきた。
授賞式の当時、ヤンは既に『タイガーテール ある家族の記憶』(ネットフリックスで配信中)の製作に取り掛かっていた。きっかけとなったのは、30歳を過ぎて初めて台湾にある父の実家を訪ねた体験だ。「思いがあふれてきたんだ」とヤンは本誌に語った。
「あそこで両親はどんな子供時代を送ったのだろうと思った。両親は一度も話してくれなかったし、私も尋ねたことはなかった」
世代と世代をつなぐ作品
ヤンの監督デビュー作となる本作は、全てのアジア系移民に向けた、世代を超えた切ないラブレターだ。「ほぼフィクションではあるけれど、両親と私自身の関係が大きく投影されている」とヤンは言う。「自分にとっては、口では言い表せないくらいに大きな意味を持つ作品だ」
物語は1950年代の台湾と現代のニューヨークの間を行き来する。台湾の工場労働者だった主人公のピンルイは恋人と別れ、チャンスを求めてアメリカに渡る。
ヤンにとってこの作品は、典型的なアジア系アメリカ人を描いた映画だ。移民だった親たちの世代がたどった道、そして現役世代がたどってきた道も描いていると彼は言う。
「私の父に似たキャラクターが台湾にいるときの話や(ニューヨーク市北部)ブロンクスに移り住む話も出てくれば、ピアノの発表会の後、娘との間にできた溝も描かれる。ピアノの発表会で親をがっかりさせるというのは、アジア系にはよくある体験だ」