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精子ドナーは「高貴で自己犠牲的な兵士」? 男のプライドをくすぐる広告の是非

Sperm Donor Superheroes

2019年07月01日(月)18時00分
レティシア・ミムーン(ロンドン大学キャスビジネススクール講師)

ライフガードのイメージを借りてユーモラスに精子提供を呼び掛ける広告 IVF AUSTRALIA

<精子ドナーを募る広告戦略、「利他主義」より「男らしさの再確認」のほうが有効?>

精子バンクの市場が広がっている。不妊に悩む夫婦からレズビアンのカップル、独りで産むと決めた女性まで、ドナー(提供者)の精子を必要とする人が増えているからだ。

当然、精子バンクはドナー集めに必死だが、思うようには集まらない。イギリスやオーストラリアのようにドナーへの報酬が禁止され、匿名性が守られない場合は特に難しい。

しかし筆者が他の研究者と行った両国の13機関に対する調査では、15年まで減っていたドナ ーの数が回復していた。どうやら精子の提供と「男らしさ」を結び付ける広告活動が効いたらしい。精子ドナーをヒーローまたは戦士になぞらえる手法だ。

例えば、ドナーを「侵略者と戦い、国のために自らの務めを果たす高貴で自己犠牲的な兵士」に重ね合わせる。つまり精子の提供を愛国心や名誉といった価値観に結び付けるのだ。英国旗をまとった英国の精子が異国の精子を撃退するユーモラスなアニメもあった。率先して精子を提供すれば、お国のためになるというわけだ。

【参考記事】死んだ息子の精子で孫を......イスラエルで増える遺体からの精子採取

もっと日常的な場面でのヒーロー(消防士や海水浴場のライフガードなど)と精子ドナーを結び付けるやり方もある。この場合は、人々の生命を救う行為と生命の誕生に貢献する精子提供の行為が結び付けられる。

どうやら、伝統的な「男らしさ」のイメージに重ね合わせてしまえば精子の提供という行為も「みっともない」ことではなく、ポジティブなことと受け止めてもらえるらしい。現状では不妊カップルの救済を掲げるより、男のプライドをくすぐるほうが効果的なのだろう。

ただし、こうした露骨に性差別的なメッセージは考えものだ。ドナーを喜ばすどころか、反発を買いかねない。今回の調査で分かったのは、ユーモアや皮肉が役に立つということ。そうすれば男たちは、精子提供は自分の男らしさを再確認する貴重な機会と考える。

しかし今は昔ながらの男らしさ・女らしさの観念が問い直されている時代だ。いつまでも「らしさ」頼みではいけないと思うが。

【参考記事】4年前に死んだ夫婦に赤ちゃん誕生! 中国人の祖父母の願いが叶う
【参考記事】男性にもタイムリミット──35歳までに精子を凍結すべき理由

[2019年7月 2日号掲載]

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